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子供のセカイ。67

[344]  アンヌ  2009-09-24投稿
美香は呼吸が苦しくなった。視界が涙で滲んだ。どうしよう。どうしてこんなことに……。胸が一杯になって、強く強く王子の体を抱き締めて肩口に顔を押し付ける。痛いはずなのに、王子は目を覚まさなかった。
ざり、と音がして、美香はハッと顔を上げた。
いつの間にか美香たちの背後に、見知らぬ白衣の男が立っていた。丸眼鏡が太陽をきらりと反射し、その奥の瞳は見えない。その男は明らかに先の奴らとは雰囲気が異なっていた。七三にした黒髪や、皮肉そうに口端を歪めて笑う笑い方から、なんとなく頭のキレる科学者のようだと美香は思った。
「かわいそうに。」
男は二人のすぐ脇までやって来ると、二人を見下ろして言った。嫌な感じだ。美香は男を睨み付けて王子を庇った。
「近寄らないで。」
思ったより低い声が出た。男は構わずニヤリと笑う。
「ずっと戦いぶりを見ていたよ。君、すごいんだな。君はアレか、光の子供というやつなのか?」
美香は答えなかった。男の口元から笑みが消えた。
「……胸くそ悪いガキだ。だがまあいい。君、私と一緒に来なさい。」
急に腕を引っ張られて、美香は驚いて抵抗した。だがおかしなことに、体が思うように動かない。何で……?意識が飛びそうになり、美香は首を振ってなんとか持ちこたえた。体全体がだるい。石でも詰め込まれたみたいだ。瞳が虚ろになり、精神的な疲労を色濃く感じる。この感覚は、以前にもどこかでなったことがある……。
男の声が嬉しそうに囁いた。
「やはりな。光の子供の力には回数に限りがある。君は私たちとの戦いで、もう五度も力を使った。これが限界だ。六度目には意識を失うだろう……。」
「じゃあ意識を失う前に、最後の力であなたを殺してあげましょうか…?」
精一杯の脅しだったが、男には通用しなかった。男はぐいぐいと腕を引っ張った。美香は男の腕に噛みついた。自分でも、そんな野性的な行動をした事に驚いていた。男は喚きながら美香の頭を殴った。何度も、何度も。しかし美香は、がぶりと男の腕に噛みついたまま動かない。それこそ、傷ついた獣のように。美香が連れていかれてしまったら、一体誰が王子を助けるというのか。
白衣の男はついに堪忍袋の緒が切れたようだ。懐からナイフを取り出すと、勢いよく振り上げて美香の左上腕に突き刺そうとした。
その時、力強い手が男の手首をがしりとつかんだ。

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