心の忘れ物【2】
葬儀は『あの人』の家で行われることになった。
というのも、お金以外の葬儀については全て祖母に任せたからなのだが、なぜか祖母は実家ではなく『あの人』の家でやりたいと言うのだ。
僕は祖母の意図がわからなかったが特に反対する理由もないので「ばあちゃんの好きに決めてくれ」と言った。
葬儀当日の朝、『あの人』の家に向けて車を走らせていた。
葬式は夕方に身内だけで行われる。
祖母に全て任せると言ったが、一応『あの人』の息子である僕が準備をしないわけにはいかない。
車窓から見る空は真っ白な雲で一面覆われていた。
そうして20分ほど走らせると『あの人』の家に到着した。
20年ぶりの我が家の外見は、所々ペンキは剥げ、窓ガラスにはひびが入り、また小さな庭は雑草が鬱蒼と生い茂っていた。
つい最近まで『あの人』が住んでいたはずなのに、まるで何年間も人が住んでいなかったかのように廃れていた。
僕はこうなっているとはある程度予想していたが、なんとも言えない虚無感に襲われた。
意を決し玄関の戸に手を掛けた。
戸は滑りが悪くガタガタと音を立てながら開いた。
家の中は外見から比べるととても綺麗だった。
祖母が掃除してくれたのだろう。
そうして玄関に上がり、重たい戸を閉めると、奥からゆっくりと小走りで祖母出てきた。
「久しぶりだねぇ、元気にしてたかい?」
祖母は明るく優しい声で聞いてきた。
「元気にしてたよ。ばあちゃんも元気そうだね。」
祖母と会うのは正月以来だった。
元気そうだねと言ったものの、実際は以前よりもやつれて見えた。
――愛する者を亡くせば誰でも悲しみ暮れる。
祖母もやつれるほど悲しみに暮れたのだろう。
しかし、僕はそんなことなどなかった…。
感想
- 22343: 悲しい [2011-01-16]