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キャッチボール 第54話

[362]  るー6  2009-09-30投稿
「…ありがとう」
僕は本当に感謝した。
ずっと、来ないと思ってた。でも、親友の2人は必死になって僕を探してくれた。
来てくれただけで、喜びがあふれ出そうになった。
ずっと僕は、『親友』が作れないまま、14年間過ごしてきた。
1年前、僕は死に場所を探して石田中のフェンスにいた。ただそれだけで、龍吾と出会ったのである。
自分自身、龍吾に話し掛けられたときは、どうせいじめるだろう、からかうだろうと思っていた。でも龍吾は違った。
真っすぐに友情が生まれ、真っすぐに僕の気持ちを受けとめてくれた。
出会って約1年が経とうとしている今。僕は3月10日に、別れを告げる。もう、近づいてきている。でも、自分が決めた道。龍吾には申し訳ないが、受けとめてもらうしかない。
悲しみを受けとめるのは、お互い様だから…
僕はそう言い付けた。

「じゃ、帰るか。」
龍吾の笑顔をみると、何だかすぐ近くまで来ている別れが何だか遠く感じられる。
「君たちのおかげで、犯人も、友達も、見つけることができた。」
警察もどうやら感謝しているみたいだ。
「ありがとうございました。」
僕は警察にそれしか言えなかった。


「…ただいま。」
龍吾の家では、何やら落ち着かない様子の姉ちゃんがいた。
「やっと帰ってきた!」
ズカズカと龍吾に歩み寄る。
「ちょっと話がある。座って。」
真剣な話とは、珍しいな…と龍吾は思った。
「私たちの、本当のお父さんとお母さんが、会いに来てくれるって。」
その言葉に龍吾は耳を疑った。
「オレたちの…親が…会いに?」
1つ1つ丁寧に返した。
「何で私たちがここにいることを知っているのか、何処から来るのかとか、まだ分からないけど。」
姉ちゃんが動揺するのも分かる。
龍吾も、体が小刻みに震えている。
「いつ…来るんだ?」
「3月…9日。」
「オレ、その時…」
「部活だけど、こっちを優先してほしい。」
「だよな。」
龍吾は、9日は大事な大会が入っていたが、仕方なく休む事にした。
「とにかく龍吾。その日を待とう。」
「……」
龍吾は、返事ができなかった。

今から13年前…

オレと姉ちゃんは幸せな家族だなと思っていたはずだ。

あの時のオレらは。

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