短編・ベッド
オークションで落札したベッドに、あたしは一度も寝ることはなかった。
シングルサイズのそれは
来た時から異質な空気をまとっていた。
染みや汚れなんかはないし、フレームも綺麗な本物の木製だし。
でもなんだか…新品じゃないというだけじゃなく何かに「まみれた」雰囲気が、あたしに寝ることを躊躇わせた。
そしてそれが正しかったことをしる。
だって、シングルサイズに二人は寝られないでしょう?
あたしが歯磨きを終えて 気が進まないながらも寝ようかとセットした掛け布団を捲ると、そこには女がいた。
女は獣みたいにうつ伏せにうずくまって、あたしを白く濁った目で見つめて…裸の体は血にまみれていた。
実際、女は唸っていた。
怒りとも悲しみともつかない、犬じみた声を発していた。
唇を震わせて声を押し出す度に、どす黒い血液がベッドを染める。
あたしが動けずにいると、女はゆっくりと延び上がった。
ぐにゃりとした動きは人間のそれではなく、骨や肉を感じない奇妙な動作だった。
青ざめた女は、腐臭を撒き散らし、囁く。
女の裸体を濡らす血液は止めどなく部屋を汚していく。
犬のような呻きとは明らかに違う、憎しみを帯びた声が耳元よりも奥に響く。
あたしはその言葉に目をみはった。
次の日、あたしは1日を費やして、狂ったようにベッドマットにカッターを突き立てていた。
表面の分厚い布を引き裂き、ウレタンを剥き出しにして…ようやく、得たかったものを見た。
見つけたよ…。
そこには一本の長い髪の毛…今は死んでいる女の遺留品。
どうやったらこんなところに彼女の髪が入り込んだのだろう?
だが、それはどうでもいいことだ。
あたしは警察に電話をした。
この髪の毛で何かが変わる…それは予感ではなく確信だ。
彼女のことは、よく知っていた。
ワイドショーでよく見ていた。
玄関に大量の血痕を残したまま行方のわからなくなったOLだ。
おそらく、これで彼女はゆっくり寝られるだろう
あの出品者は、ベッドの他に何を出品していたっけ…。
警察が来るまでの間、あたしは漠然とそんなことを考えていた…。
終
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