子供のセカイ。71
だが、いろんなことが心配で、やはり眠れそうになかった。美香は女性の顔を見て、頷いてみせた。
中年女性はそっと溜め息に似た息を吐くと、少しだけ困ったように笑った。
「本当はあなたも、もう少し安静にしていなければならないのだけどね。でも仕方ないわ。きっと頭が混乱しているでしょうし。」
何から話せばいいかしら、そう聞いた女性に、美香はまず二人に会わせて欲しいと頼んだ。
「でも二人とも寝ているわよ。あまり起こさない方がいいのだけれど……。」
「大丈夫です。ただ無事な姿が見たいだけなので、眠ったままでいいですから。」
「そう。じゃあ案内するわ。……この靴をはいて。」
ベッドの下からスッと革靴を出して、美香の方に揃えてくれた。美香はお礼を言ってベッドから足を下ろす。その時、自分が着ているのが前着ていたのとは違う服なのに気づいた。
中年女性が着ているのと同じような、ゆったりとした白い衣服だった。やわらかな素材が肌に心地よく、上はしっかりした生地の長袖で、下はロングスカートになっている。
「あの……。」
「ああ、服ね。前着ていたのがボロボロだったから、ひとまずこっちに変えたのよ。ごめんなさいね、勝手に。」
「あ、いえ!いろいろとありがとう……。」
何だか変な気分だ。親切すぎることがかえって不気味だった。女性に従って歩き出しながら、美香は、この人を本当に信用していいものかと思案していた。この人の言葉は真実だろうか。王子やジーナは本当に無事なのだろうか。だが、美香は唇を噛んで不安に揺らぐ気持ちを押し殺した。
(今からそれを確かめに行くんじゃない。これで本当に無事だったら信用すればいいんだわ。)
なんだか疑り深くなりつつある自分に嫌気がさしたが、それでも用心に越したことはない。美香は少しだけ女性と距離を取りながら、ドア枠のはまっていない四角いアーチ状の扉を抜け、石造りの通路に出た。
通路は長く長く伸びていた。この大きな建物全体が石造りらしい。窓や扉にはガラスもドアもはめられておらず、ただ無機質に四角い穴が空いている。窓からは森が見えた。小鳥が鳴く声が沈黙した石の館に木霊し、どこか不気味だった。今は昼間らしいが、空はどんよりと曇っていて、低い雲が森に影を落としている。
“子供のセカイ”で最初に出会った老婆の説明通りだ、と美香はぼんやり思った。
中年女性はそっと溜め息に似た息を吐くと、少しだけ困ったように笑った。
「本当はあなたも、もう少し安静にしていなければならないのだけどね。でも仕方ないわ。きっと頭が混乱しているでしょうし。」
何から話せばいいかしら、そう聞いた女性に、美香はまず二人に会わせて欲しいと頼んだ。
「でも二人とも寝ているわよ。あまり起こさない方がいいのだけれど……。」
「大丈夫です。ただ無事な姿が見たいだけなので、眠ったままでいいですから。」
「そう。じゃあ案内するわ。……この靴をはいて。」
ベッドの下からスッと革靴を出して、美香の方に揃えてくれた。美香はお礼を言ってベッドから足を下ろす。その時、自分が着ているのが前着ていたのとは違う服なのに気づいた。
中年女性が着ているのと同じような、ゆったりとした白い衣服だった。やわらかな素材が肌に心地よく、上はしっかりした生地の長袖で、下はロングスカートになっている。
「あの……。」
「ああ、服ね。前着ていたのがボロボロだったから、ひとまずこっちに変えたのよ。ごめんなさいね、勝手に。」
「あ、いえ!いろいろとありがとう……。」
何だか変な気分だ。親切すぎることがかえって不気味だった。女性に従って歩き出しながら、美香は、この人を本当に信用していいものかと思案していた。この人の言葉は真実だろうか。王子やジーナは本当に無事なのだろうか。だが、美香は唇を噛んで不安に揺らぐ気持ちを押し殺した。
(今からそれを確かめに行くんじゃない。これで本当に無事だったら信用すればいいんだわ。)
なんだか疑り深くなりつつある自分に嫌気がさしたが、それでも用心に越したことはない。美香は少しだけ女性と距離を取りながら、ドア枠のはまっていない四角いアーチ状の扉を抜け、石造りの通路に出た。
通路は長く長く伸びていた。この大きな建物全体が石造りらしい。窓や扉にはガラスもドアもはめられておらず、ただ無機質に四角い穴が空いている。窓からは森が見えた。小鳥が鳴く声が沈黙した石の館に木霊し、どこか不気味だった。今は昼間らしいが、空はどんよりと曇っていて、低い雲が森に影を落としている。
“子供のセカイ”で最初に出会った老婆の説明通りだ、と美香はぼんやり思った。
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