心の忘れ物 【3】
僕が靴をぬくと祖母は僕を案内した。
僕は周りを見渡しながら祖母の後についていった。
昔より壁などがタバコのヤニの所為か、黒ずんでいた。
奥の部屋(普段は客間だった部屋)に着くと祖母は脚を止め、「あそこじゃよ」と言って顔を『それ』の方に向けた。
僕も祖母の視線の方に顔を向けた。
「……!!!」
『それ』は僕の身体を一瞬で石のように固まらせた。
そこには『あの人』が入っているだろう棺桶が置いてあった。
――息が出来ない。身体が動かない。背中に汗が流れるのを感じる。視点が棺桶から離れない。
「………。」
「顔…見てみるかい?」
その声が僕を我に返らせた。
しかし、上手く口が動かせない。
「い…いや…い…今は止めておくよ…」
「…そーかぃ?…」
祖母は少し俯き、しばらく沈黙した。
しかし、祖母は何かを決心したかのか顔を上げまじまじと僕の瞳を見て「ついといで」と言って、客間を出て行った。
僕はわけもわからず、祖母の背中を追いかけた。
ミシミシと鳴り響く廊下を渡り祖母が足を止めたのは『あの人』の部屋(寝室)だった。
「ここに座って」
僕は祖母の指示に従い、畳の上に正座をして座った。
そして祖母は『あの人』の机の引き出しの中から何かを取り出し、僕の前に正座し、目を閉じて息を整えてから、皺だらけの目もとをより皺くちゃにし目を大きく開けた。
「あなたにいくつか渡したい物があるんよ」
祖母はしっかりとした口調で言うと、僕の膝の前に一枚の色あせた紙を置いた。
裏面には何か書いてあるようだが…
『あの人』の遺書だろうか?
「ばあちゃん…これは…?」
祖母は何も答えず、無言でそれを僕に読むように促した。
僕は恐る恐る色褪せた紙を持ち上げひっくり返した。
「これはッ!!?」
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