ダーインスレイブ 序章
空は厚い雲に覆われ、月の光は遮られている。
夜道を照らしているのは街頭の光だけだ。
近頃、世間を騒がせている連続殺人事件の犯人を捜し歩いて二時間とちょっと。
行き着いた先は住宅地の近くある廃ビルだった。
獲物を待ち伏せし、犯行後逃げ込むのには最適な場所だ。
ビルの中に入ってみるとタバコの吸殻、酒の空き缶、菓子類の袋、ドロップアウトした方々が居た形跡はあるが気配も無い。
各階を見て回ったが三階まではゴミしか無かったが四階は違った。
雲が晴れ顔を覗かせた満月の光に照らされた四階は異常だった。
床一面に広がる赤黒いシミの無い所が返って不自然に思える程に床は赤黒く染まっていた。
壁には端から端まで所狭しと刃物が吊されていた。
ナイフ、フルーレ、カットラス、ククリ刀、日本刀。
ざっと見た限りでもこれだけの種類がある。この部屋は中世の武器庫か。
「素晴らしいコレクションだろう?」
階段からくぐもった声が響いてきた。
「悪趣味だな。何人殺した?」
「まだ三十人だよ。最初に殺したのはここにいたクソガキだったなぁ。仲間が来たからまた殺してやったが、それだけじゃあ興奮が収まらなくてねぇ。外を歩いていた奴も殺してやったよ。あはははは…」
姿を見せたサラリーマン風の男は顔に手を当てて不気味に笑っている。その背には刀が背負われている。
「その刀を何処で?」
「変な男が譲ってくれたんだよ。しかし、この刀の切れ味は素晴らしいぞ!!鉄骨を楽々と切り落とすんだからな!!人間なんて紙切れだ」
「アンタの快楽殺人に付き合う気は無い。その刀を俺に渡して警察に投降するか死ぬかだ
一瞬で間合いを詰められ男が刀を振り下ろした。肩にかけていた刀を抜き刀を受け止める。
刀を払い退け、男の胸目掛けて刀を横一文に振る。
手に気色の悪い感触が走った瞬間、男は片膝を着いた。胸からは黒く濁りきった液体が際限無く溢れ出し、痙攣している。
やがて、男は動かなくなり刀が軽い音を残して床に転がった。
「クトネシリカ、アイヌの英雄を護ったという刀か」
独り言を呟き、刀を拾い上げ廃ビルを後にした。
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