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子供のセカイ。74

[348]  アンヌ  2009-10-08投稿
「やめておけ。奴は怪我をしているのだぞ。心配なのはわかるが、今はそっとしておいた方がいい。」
ジーナにたしなめられて、美香は不安が倍増した。傷がひどくても、包帯でぐるぐる巻きになっていても、それでもいいから、美香は一目王子の顔が見たかった。――生きているということを確かめたかった。
『美香ちゃん。』
優しく手を引いてくれる王子の姿が瞼の裏に浮かび上がって、美香は胸が痛くなった。彼を守れなかった。私のせいだ。私がサボテンの怪物を作るのに躊躇わなければ、こんなことにはならなかったのに……!リリィの時だって、美香がその本性に気づかなかったせいで王子を傷つけた。思い起こせば、彼はいつも美香を守ってくれていた。
ホシゾラは美香の様子を察したのか、「私、さっきの部屋に戻っているわね。」と呟いて、部屋を去った。靴音が途切れるまで、美香は動かなかった。そして床を見つめたまま言った。
「ジーナ。」
「……。」
「ジーナはあの時、言ったわよね。私に戦いは無理だって。」
「……。」
「その通りだったの。私、自分で思っているよりずっとずっと弱かった。……怖くて怖くてたまらなかったの。」
そう、美香は、怖がっていた。何もかもに。戦って失うものの大きさに怯えていた。
岩のような沈黙の後、ジーナは低いかすれ声で、ひっそりと囁いた。
「……戦いには、二つの覚悟がいる。傷つける覚悟と、傷つけられる覚悟だ。」
美香は声が出なかった。代わりに、パタパタと涙が床を濡らした。
「お前は強いよ、美香。弱くなどない。お前は自分を傷つけられる覚悟なら持っていた。それだけでも大したものだ。だが、お前は優しい。優しいから、人を傷つける覚悟も、仲間を傷つけられる覚悟もなかった。」
「…ふっ!」
嗚咽が込み上げて、美香は、歯を食い縛った。涙で視界が歪む。怒りでも悲しみでもない。ただ美香は悔しかった。悔しくて悔しくて、涙が止まらなかった。
「………私のせいだ…!」
わああ、と泣き崩れた美香を、ジーナは茫然と見つめていた。王子の容態を知っている彼女は、もう安易に美香を慰めることができなかった。もしこのまま王子が目覚めなければ、それはジーナの責任だった。この戦いに子供たちを巻き込んだのはジーナなのだ。
二人はそれぞれ違う思いを抱えたまま、互いに底知れぬ恐怖を共有して佇んでいた――……。

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