携帯小説!(PC版)

白い部屋

[206]  椿  2009-10-10投稿
 遠くから祭の太鼓が聞こえる。こんな日は、外来が賑わう予感がして、すこし臆病になる。
 無医村に近い田舎の土地で、「何も起こらない」ことを淡く期待しつつ、眠れない夜を過ごす。睡眠導入剤は、たぶん、使わない方がいい。自宅の医院から持ち出した精神安定剤を規定量だけ飲み込んで、白く固いベッドに横になる。ひんやりして冷たいベッドは、体の芯まで凍った気分がして、めまいがする。
 病院は白い。白は潔癖で、清純で、何色にも染まり、時間が経てば黒にも染まりうる。
 築何年の医院かはわからないが、少し黒ずんだ壁、天井の不規則な線状の模様は、昭和中期の建造を思わせる。
 ここまできて、いつも私は、引き受けるんじゃなかったと後悔する。少し外来が忙しいくらいのほうが、暇をもてあそばなくていい。考え事をしなくて済む。さっきまで、何もなくていいと思っていたくせに?
 私が医者であることをやめたのはいつだっただろう?夏の祭が終わって、季節が変わり、ある時突然動けなくなった。白い部屋の小さな窓から、木の葉の変わる色で季節が終わったことを知った。
 決して狭くはない部屋だが、あと四十八時間ここに拘束されると思うとげんなりする。
 祭の音は消えた。窓を開けると、秋の夜風とともに鈴虫がやかましいほどナイテいた。

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