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流狼−時の彷徨い人−No.14

[400]  水無月密  2009-10-11投稿
 半次郎は各地を巡り歩き、多くの武将を見て回った。
 全国にはいろいろな人間がいた。
 強大な軍事力を保有する者、武勇や知略に優れた者、治政に辣腕を振るう者、才能に富んだ者達が多くた。
 だが、景虎や晴信に対抗しうる大名には、ついに出会えなかった。

 例えば相模の北条家や駿河の今川家などは強大な軍事力を持ち、大大名といわれていたが、両家ともに斜陽の陰りがあった。

 中国地方には毛利元就という男がいた。
 彼は戦国一の智将といわれ、一代で飛躍的に勢力を拡げ、毛利家の基礎を築いた人物だったが、すでに六十を越えていてた。

 九州にも二人の名将がいた。
 豊後の立花道雪は雷神の化身といわれた武将で、驚くことにその戦歴は生涯に一度たりとも負けはなかったという。
 薩摩の島津義弘は、島津に馬鹿殿無しと謳われる名家の中でも、鬼島津の異名をもつ猛将として畏れられていた。

 道雪と義弘は、年齢的には問題なかったが、この二人は大名ではなく、また二人の主家は九州内で互いに潰し合い、結局は九州の制覇すら成らずに戦国の世を終えていた。
 そして、なによりもこの二人には、歴史の奔流までの距離がありすぎた。


 旅の途中、半次郎は変わり者の大名がいると聞き、尾張の地を訪れたのは、奇しくも今川軍が大挙して侵入してきた桶狭間の戦いの時だった。
 今川軍の軍勢はおよそ二万五千。
 これに対し、迎える織田軍は僅か三千にも満たない兵しか投入でずにいた。

 どちらにも与せず、傍観を決め込んでいた半次郎は、篭城するようなら織田に勝機は無いと見ていた。
 篭城とは援軍がくることを大前提におこなう策である。
 だが、唯一姻戚関係にあり、援軍を期待できた斎藤道三は既に死去していて、この日本に織田家へ援軍をだす大名家は存在しないのである。
 故に織田家が活路を見いだすには、城を出て戦うしかなかった。

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