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流狼−時の彷徨い人−No.15

[417]  水無月密  2009-10-11投稿
 策はある。陽動をもって敵の兵力を分散させ、相手の総大将である今川義元を討ち取れば、兵力差は意味をなくす。

 ただ、これには必須条件が二つあった。それは義元の居場所を正確に把握することと、敵にこちらの動きを悟られないこと。

 織田家の当主である信長は、半次郎が画策した通りの動きをした。
 支城の一つに敵軍の主力を誘き寄せた信長は、義元の居場所をつかむのに手間取ったものの、ぎりぎりのところで田楽狭間にいると知り、全兵力を急行させた。

 この時の信長には、二つの幸運があった。
 一つは黒衣の宰相と称された今川家切っての智将、太原雪斎が既に亡くなっていたことである。
 彼が存命ならば、信長の思惑は看破されたかもしれないが、現在の今川家には雪斎に代わる者はなく、織田軍の篭城を疑う者は誰一人としていなかった。

 もう一つは行軍する自軍の気配を雨が掻き消し、今川軍に悟られなかったことだ。
 突如現れた軍勢に今川軍は壊乱し、義元は訳のわからぬままに討ち取られていた。
 信長の快進撃は、まさにここから始まるのである。

 この時の半次郎は、凱旋する信長を遠くから眺めるだけで対面はしなかったが、その人となりは検証していた。
 常識や先入観にとらわれない柔軟な思考力と、思い切った行動力は優れている。
 戦術と戦略の判断も悪くなかった。
 だが、この男に晴信や景虎ほどの力は感じなかった。

 後の話だが、信長自身もそれを自覚し、強大な軍事力を有するに到っても、この二人にだけは平身低頭して衝突を回避していた。

 半次郎には一つだけ、見極められない点があった。
 ここぞというところで降り始めた雨は、単なる偶然だったのか、それとも信長が持って生まれた強運なのか。

 この時の半次郎には知る由もなかったが、この後も信長の強運は続いた。
 ましてや半次郎自身がその強運に組み込まれようとは、思いもしなかっただろう。


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