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子供のセカイ。75

[339]  アンヌ  2009-10-12投稿


* * *

覇王は足早に回廊を歩いていた。
通路は温かなオレンジ色の電灯に、美しくライトアップされている。まるでホテルの中のようだ。壁には幾何学模様が描かれ、真鍮製のドアノブが光る白木のドアの部屋の前をいくつか通り過ぎる。
長い小麦色の髪を颯爽となびかせ、角を曲がる。そこから先はこれまでの景色とは打って変わり、白亜の大理石の階段が突然現れ、その上にはふかふかの赤い絨毯がひかれていた。覇王は片時も足を止めることなく、横に広い階段の真ん中を上っていった。――この先に舞子の個室がある。
(少女趣味なことだな。)
覇王は青い瞳を長い睫毛の下に隠すと、心の中で嘲笑った。ここへ来るといつもそう思う。大体、三年前、前支配者を覇王の助力の元に倒した辺りから、舞子のワガママは際限なく膨れ上がっていた。お城に住みたいと駄々をこね、ラディスパーク中の資材を集めさせ、舞子は、それはそれは豪華絢爛な城を作り上げた。まるでシンデレラ城のような、白銀に輝く巨大な城を。その時から、すでに覇王は舞子に嫌気がさしていた。
(だがそれも、後少しの辛抱だ……。)
長かった。本当に長かった。三年も頭の悪い小娘の言うことに従順であり続けることは、覇王にとって苦痛以外の何物でもなかった。
だが、もう我慢しなくていいのだ。舞子を“子供のセカイ”に引きずり込んだあの日から抱き続けてきた野望が、あと少しで達成する。
「だが、まあ、頭の回らない奴の方が操りやすいからな……。」
そういった意味では、舞子は本当によく働いてくれた。こうすると良い、と言う覇王の偽りの助言を、すべて純粋に信じ込み、ここまで彼の計画をスムーズに進めてくれたのだから。
階段を上りきると、大きな両開きの扉が姿を現した。色とりどりの宝石が散りばめられ、まるで夜空の星のように輝いている、漆黒の扉。
二回ノックをすると、「どうぞ」という返事があった。ドアを開け、中へ入る。
覇王は後ろ手にドアを閉めると、薄暗い室内に慣れようと目をしばたたいた。回廊の明るさにやられてしばらく何も見えなかったが、ようやく室内の家具が薄闇の中にぼんやりと浮かび上がった。ガラスのテーブル、美しい少女たちが描かれた絵画、そして一人がけのソファーに身を沈める舞子の後ろ姿。

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