がく、さい 第五場 〜川上さんの話〜
顔をあげると、そこには見馴れた、甘い顔がいた。甘くて甘くて、胃もたれしちゃうぐらいの。
「具合悪いの?」
後藤は私の顔を覗き込む。前髪が鼻先に当たって、くすぐったい。
「何それ。」
「何って…?」
私は後藤の前髪を掴んで顔を思いっきり持ち上げた。
「痛いっ…何するんだよ、」
「川上さんって何よ、しらじらしい!」
気付いたら大声を出していた。
「だって、君が……」
「やめてよ、君なんて。」
「じゃあ何て呼べばいいんだよ。実緒もやだ、川上もやだ、結局、君は我が儘が言いたいだけなんだ。」
後藤は今まで聞いたことのない声で呟いた。
低く、くぐもった声。
「じゃあ呼ばないでよ!もう私に話し掛けるな!」
私はヒステリックに叫ぶ。
喉が痛い。渇いた。甘いものが飲みたい。
後藤は一瞬、目を細めて泣いてるような、睨んでるような、顔をした。
そしていつものように前髪を直し、目が見えなくなった。
「わかったよ。」
聞き慣れた声で言った。
顔は見えない。
自販機の前に、私は一人座っていた。
牛乳を飲む。
「苦い……」
半分ぐらい残った牛乳は鳴咽とともに私の喉に流されていく。
白くて、苦い液体が通っていく。
渦をまいて。私は耐え切れず吐き出した。
そして丸くなって、お腹が溶けていくのを感じた。胃も骨も、全部、ぐるぐるになって溶けちゃえばいい。
最後には私はなくなって、白い液体だけが残る。
それでいい。
「具合悪いの?」
後藤は私の顔を覗き込む。前髪が鼻先に当たって、くすぐったい。
「何それ。」
「何って…?」
私は後藤の前髪を掴んで顔を思いっきり持ち上げた。
「痛いっ…何するんだよ、」
「川上さんって何よ、しらじらしい!」
気付いたら大声を出していた。
「だって、君が……」
「やめてよ、君なんて。」
「じゃあ何て呼べばいいんだよ。実緒もやだ、川上もやだ、結局、君は我が儘が言いたいだけなんだ。」
後藤は今まで聞いたことのない声で呟いた。
低く、くぐもった声。
「じゃあ呼ばないでよ!もう私に話し掛けるな!」
私はヒステリックに叫ぶ。
喉が痛い。渇いた。甘いものが飲みたい。
後藤は一瞬、目を細めて泣いてるような、睨んでるような、顔をした。
そしていつものように前髪を直し、目が見えなくなった。
「わかったよ。」
聞き慣れた声で言った。
顔は見えない。
自販機の前に、私は一人座っていた。
牛乳を飲む。
「苦い……」
半分ぐらい残った牛乳は鳴咽とともに私の喉に流されていく。
白くて、苦い液体が通っていく。
渦をまいて。私は耐え切れず吐き出した。
そして丸くなって、お腹が溶けていくのを感じた。胃も骨も、全部、ぐるぐるになって溶けちゃえばいい。
最後には私はなくなって、白い液体だけが残る。
それでいい。
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