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がく、さい 第六場 〜川上さんの話〜

[163]  あこ  2009-10-16投稿
「川上さん!?大丈夫??」


「先生、こっちです!」

「おい、川上、どうした?」

頭の中で色々な声が聞こえた。

「瀬戸ちゃん?」


私は呻くように言った。
そしてそのまま、深い泥の中に吸い込まれていった。













次に目を開けると、見馴れない天井があった。

「真っ白。」



そこは四方を壁に囲まれた白くて、清潔という言葉しか出てこない程、無個性な部屋だった。


そこが病院だと気付くまでに、暫くの時間が必要だった。


私は身体を起こそうと試みる。だけど、上手くバランスが取れずにもがくような形になった。


「痛っ……」


下腹部に鈍い痛みを感じた。


「ダメだよ、まだ起き上がっちゃ。」


そこには、子犬のような目をした女の子がいた。


「瀬戸ちゃん。」


声が掠れる。

唐突に、喉の渇きを感じる。

「盲腸だって。薬で散らすから、手術は要らないらしいよ。」


それが自分に向けて放たれた言葉だと理解するのに、私はまた時間がかかった。


大丈夫。頭は正常だ。ただちょっと、ぼやけているだけ。


「今先生がご両親に連絡してるから。」


私は頭にそれを染み込ませてから、小さく頷く。


部屋の隅に、大きな塊がみえた。


「後藤……」


彼は何も言わず、ただ私を見てた。

「後藤くんが初めに気付いたんだよ、川上さんが倒れてるの。で、先生とか呼んでくれたの。あんな必死な後藤くん、初めて見たよ。」

瀬戸ちゃんはそう言うと小さく笑った。


「…何か飲みたい。」

掠れた、可愛くない声が出た。

「あ、うん。じゃあ水貰ってくるね。」

瀬戸ちゃんは慌ただしく出ていく。性格が良いのだ。私と違って。


後藤と私はその白くて狭い部屋で、長い間沈黙の中にいた。

もしくは長く感じただけで、それはほんの一瞬だったのかもしれないけど。

「ごめん。」

空間を裂いて後藤の声が響く。

「……何で謝るの。」


「様子おかしかったのに、気付けなくて、ごめん。」

彼は小さく、小さく、言った。

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