が、くさい 第七場
私は今、先生の車に乗っている。助手席に私。後部座席には川上さんと、後藤くん。川上さんは意識も朦朧としてるみたいで、後藤くんの膝に頭を乗せて、横たわっている。
眠っているようにも見える。
長く伸びた睫毛が影を落とし、まるで死んでしまったジュリエットのように、とても綺麗。
時折、お腹が痛むのか、眉をしかめる。後藤くんはそのたびにハンカチで汗を拭いてやっている。
前髪から覗く目は、不安げで今にも泣きだしちゃうんじゃないかってぐらい、赤く潤んでいた。
反対にハンドルを握る先生は、いつもと変わらぬ飄々とした表情で、それでもたまにバックミラーごしに川上さんの様子をチラチラと見ていた。
車内は口を開いたらいけないルールがあるかのように、静かで、たまに川上さんの苦しそうな、声にならない声が聞こえるだけだった。
私達は車中、ほとんど会話を交わすことなく、病院に着くまでに先生が二本、煙草を吸っただけだった。
私は先生が煙草を吸うなんて知らなかったし、見たこともなかったからびっくりしたけど、また「大人」を見せつけられてるみたいで、少し心が痛くなった。
川上さんは盲腸だった。
まだ薬で散らせる段階だから、手術は必要ないけど、二、三日は入院が必要とのことだ。
点滴を打たれた川上さんは、そのまま眠ってしまった。後藤くんはずっと、川上さんの傍を離れなかった。
先生は廊下で、川上さんの両親に連絡をしてる。
「ちっ…繋がらないな。」
先生は焦るでもなく、小さな舌打ちをした。
「瀬戸、先帰っていいぞ。何時になるか分かんないし。」
繋がらない携帯電話を睨みながら先生は言った。
「大丈夫です。部活もないし…。」
「そっか。」
「はい。」
先生はやっと携帯電話から目を離し、私の方を見て言った。
「なんか飲む?」
「あ、はい。」
「何がいい?」
「一緒に行きます。」
私は子犬のように立ち上がり、先生の後ろについていった。
短い尻尾を一生懸命振りながら、置いていかれないように早足で歩く。
眠っているようにも見える。
長く伸びた睫毛が影を落とし、まるで死んでしまったジュリエットのように、とても綺麗。
時折、お腹が痛むのか、眉をしかめる。後藤くんはそのたびにハンカチで汗を拭いてやっている。
前髪から覗く目は、不安げで今にも泣きだしちゃうんじゃないかってぐらい、赤く潤んでいた。
反対にハンドルを握る先生は、いつもと変わらぬ飄々とした表情で、それでもたまにバックミラーごしに川上さんの様子をチラチラと見ていた。
車内は口を開いたらいけないルールがあるかのように、静かで、たまに川上さんの苦しそうな、声にならない声が聞こえるだけだった。
私達は車中、ほとんど会話を交わすことなく、病院に着くまでに先生が二本、煙草を吸っただけだった。
私は先生が煙草を吸うなんて知らなかったし、見たこともなかったからびっくりしたけど、また「大人」を見せつけられてるみたいで、少し心が痛くなった。
川上さんは盲腸だった。
まだ薬で散らせる段階だから、手術は必要ないけど、二、三日は入院が必要とのことだ。
点滴を打たれた川上さんは、そのまま眠ってしまった。後藤くんはずっと、川上さんの傍を離れなかった。
先生は廊下で、川上さんの両親に連絡をしてる。
「ちっ…繋がらないな。」
先生は焦るでもなく、小さな舌打ちをした。
「瀬戸、先帰っていいぞ。何時になるか分かんないし。」
繋がらない携帯電話を睨みながら先生は言った。
「大丈夫です。部活もないし…。」
「そっか。」
「はい。」
先生はやっと携帯電話から目を離し、私の方を見て言った。
「なんか飲む?」
「あ、はい。」
「何がいい?」
「一緒に行きます。」
私は子犬のように立ち上がり、先生の後ろについていった。
短い尻尾を一生懸命振りながら、置いていかれないように早足で歩く。
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