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が、くさい 第八場

[171]  あこ  2009-10-16投稿
自販機の前で、先生はためらいなくコーヒーのボタンを押した。

「瀬戸は。」


「紅茶。暖かいので。」

ガタン

勢いよくペットボトルが落ちる。


「ん。」

先生は子供に飴をやるみたいに、かがんだままの姿勢で、私に紅茶を差し出す。


「ありがとうございます。」

差し出されたペットボトルを両手で包み込む。

暖かい。

私は身体が冷え切っていたことに、今気付いた。

「一服してくる。」


そう喫煙室を指し、言うと先生は隔離された、ガラスばりの部屋に入っていく。

喫煙室の前のソファーに背中から座りながら、私はその様子を見ていた。


先生は器用に煙草を一本取り出し、素早く火を点け、深く煙を吸い込んだ。

そして、右眉を少ししかめながら煙を吐き出す。

白い煙が、天井に向かって一筋の線を描く。

私の中まで煙りが充満したみたいに、先生の呼吸に合わせて息を吐き、吸う。


「まり……ぼろ……」


私は煙草の名前を知らない。先生の煙草のパッケージを盗み見する。

「変な名前。」


私は誰に言うでもなく、呟いた。

私の視線に気付いたのか、先生と目が合った。先生は顎を上げ、必然的に椅子に座った私を見下す姿勢になった。


そして短くなった煙草を乱暴に揉み消して、喫煙室からでてきた。


「何見てたの。」


いつもの興味のなさそうな顔で聞く。


ばれてた。恥ずかしい。顔が熱くなるのが自分でも分かる。


「煙草……美味しそうに吸うなぁって……。」


嘘ではない。事実、先生はとても美味しそうに吸ってたのだ。


「ああ、煙草ね。珍しい?」


「はい、家族も吸わないんで。」


「瀬戸はまだ駄目だよ。あと三年か。」


「二年です!」


予想以上の大きな声がでて、自分でもびっくりした。


先生もこっちを見て、それから口の端をあげて笑って言った。

「悪い悪い、二年、な。」

私は、自分が幼稚なことしてる、と気付いて顔を伏せた。


まだ口を付けずにいるペットボトルを、強く、握った。

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