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神のパシリ 5

[410]  ディナー  2009-10-16投稿
ゼルの返事に呼応するかのように、彼の体は人間世界の、先程のビルの頂上に戻っていた。

夢から醒めたかのような覚醒感。

それは気持ちのいいものでも、悪いものでもない。

「…ちっ」

とある事を思い出し、ゼルは舌打ちした。

死の神は、どうやら力を失い、同時にそそっかしくなったらしい。

仕事場所を、聞いていない。

だが、それはゼルにとってたいした障害ではない。

人間と同じように、情報を集め、しかるべき移動手段で目的地に向かえばいいだけの事。

その方が、かえって目立たずに済む。

他の神の小間使いどもも、どこに潜んでいるか分からないのだ。

ゼルは惨劇の光景を目尻にかすめ、その場を後にした。

使い終え、灰になった魔法陣が、生温い風にさらわれ消えていった。





―――――――――――\r





聞いた所では、バベルの彼方、雨の街ロロと呼ばれる荒廃した街で、原因不明の殺人が起きているという。

疫病から逃れた、地下シェルターの人間から話を聞いた。

彼らも街を見限り、数日のうちに別の街へ発つという。

人間は、つくづくしぶとい。
神が与えた生への渇望がそうさせるのか、
ただ現世の欲望に囚われているだけなのか。

近場の街に列車の駅があり、そこの列車が近くを定期航路にしているらしい。

ゼルは、駅へ向かう。



駅も、疫病を逃れた人間でごった返していた。

平和な街を求める者。

暖かい島国へ向かう者。

家族のもとへ帰る者。


…またここから、死者が出る。

疫病が恐ろしいのは、それが人間の目に見えぬ事、知らないうちに疫病に染まっていく事、それが人間同士で広がる事だ。

ゼルはそんな脆くはかなく醜い人間らを尻目に、その脆くはかなく醜い人間のふりをして列車に乗った。

やがて、ゼルを乗せた鉄の蛇は、出発の呻きを駅に響かす。

座席で、窓の景色に目をやるゼルに、女の声がかかった。

「…ねぇ、隣、よろしいかしら」

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