が、くさい第十場
病室に戻った私は、ベッドに横たわる川上さんをぼんやり見ながら、先生の匂いを思い出していた。
決していい匂いではないけど、煙草と香水と汗とか、先生を形成してるものが混ざり合った匂いだと思うと、とても愛おしく感じる。
私はふわふわと浮遊していた。私の身体に、鼻孔に、あの人の匂いが染み付いて消えないように。
麻薬。
きっと私にとってあの人は麻薬なんだろう。
私の身体も心も蝕んで、ボロボロになったとしても、それでもまた欲しくなる。
いくら線を引かれても、分かりきった答があったとしても。
後藤くんはずっと沈黙を守っていた。
部屋の片隅で、じっと、息も聞こえないぐらい、存在というそのもの自体を消し去ってしまっていた。
一時間程経ったのだろうか。それともほんの数分だったのかもしれないけど、川上さんが目を覚まし、私と先生は一度学校に戻ることになった。
後藤くんは川上さんの両親を待って、家まで送ると言う。
帰り際、川上さんは私と先生に「ありがとう」と少し照れながら言った。
後藤くんは、まるで保護者みたいにそんな川上さんを見て微笑んでいた。
後藤くんはきっと川上さんのことが好きなんだろう。直感的に、感じた。
女の勘ってやつ。所謂。
病院から学校に戻る時、私は助手席に座り、今日二度目の先生の運転を見た。
行きは川上さんのことで一杯で、気付かなかったけど、先生は運転が上手い。滑らかに、車が道路を走っていく。たまに横目で先生を見る。
先生は真っ直ぐ前を見つめていた。
私の視線なんてまるでなかったもののように。
「練習、出来なかったな。」
先生は途中、時計を見て言った。
時間は六時を指していた。
日が短くなり、太陽が沈みかけていた。
夕日に染められた先生の顔はいつもより一層、思わず息を飲むぐらい綺麗だった。
私は何も言えなかった。話すべき言葉が見つからない。言いたいことも、聞きたいこともいっぱいあるはずなのに。
学校へ着くまで、私は一言も喋らず、先生はまた煙草を二本吸った。
少しでもこの時間が続くように、事故にでもあってしまえばいい。
そんなことを考えて、時折煙草の煙りが目に染みて、少し泣いた。
決していい匂いではないけど、煙草と香水と汗とか、先生を形成してるものが混ざり合った匂いだと思うと、とても愛おしく感じる。
私はふわふわと浮遊していた。私の身体に、鼻孔に、あの人の匂いが染み付いて消えないように。
麻薬。
きっと私にとってあの人は麻薬なんだろう。
私の身体も心も蝕んで、ボロボロになったとしても、それでもまた欲しくなる。
いくら線を引かれても、分かりきった答があったとしても。
後藤くんはずっと沈黙を守っていた。
部屋の片隅で、じっと、息も聞こえないぐらい、存在というそのもの自体を消し去ってしまっていた。
一時間程経ったのだろうか。それともほんの数分だったのかもしれないけど、川上さんが目を覚まし、私と先生は一度学校に戻ることになった。
後藤くんは川上さんの両親を待って、家まで送ると言う。
帰り際、川上さんは私と先生に「ありがとう」と少し照れながら言った。
後藤くんは、まるで保護者みたいにそんな川上さんを見て微笑んでいた。
後藤くんはきっと川上さんのことが好きなんだろう。直感的に、感じた。
女の勘ってやつ。所謂。
病院から学校に戻る時、私は助手席に座り、今日二度目の先生の運転を見た。
行きは川上さんのことで一杯で、気付かなかったけど、先生は運転が上手い。滑らかに、車が道路を走っていく。たまに横目で先生を見る。
先生は真っ直ぐ前を見つめていた。
私の視線なんてまるでなかったもののように。
「練習、出来なかったな。」
先生は途中、時計を見て言った。
時間は六時を指していた。
日が短くなり、太陽が沈みかけていた。
夕日に染められた先生の顔はいつもより一層、思わず息を飲むぐらい綺麗だった。
私は何も言えなかった。話すべき言葉が見つからない。言いたいことも、聞きたいこともいっぱいあるはずなのに。
学校へ着くまで、私は一言も喋らず、先生はまた煙草を二本吸った。
少しでもこの時間が続くように、事故にでもあってしまえばいい。
そんなことを考えて、時折煙草の煙りが目に染みて、少し泣いた。
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