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神のパシリ 6

[409]  ディナー  2009-10-18投稿
その声に、ゼルは通路に立つ女を見た。

透明感と艶やかさを合わせ持った顔は、ゼルに好奇の視線を送っている。
瞳が充分すぎるほどに潤み、一言で表せば美しい。

薄い、タイトな白のレザードレスで包まれた体は肉感的なラインを描き、それをまたドレスが引き立てている。

こぼれそうな豊かな胸元。
折れそうな腰から、臀部へ描かれた柔らかなライン。

付け根近くまでむき出しの脚。

人間の肉欲を具現化したような女だ。

ゼルは窓に視線を移し、素っ気なく
「…構わんよ」
と一言。

別に緊張している訳でも、まして欲情している訳でもない。

この手合いは苦手なだけだ。

「ありがとう。助かるわ」

女は長い髪がゼルに当たらないよう気遣いながら隣に座る。太腿が、スリットから主張するようにあらわになる。

ふわっ、と香りがした。どことなく光を感じる暖かな香りだ。

列車は時折軋む音をたてながら進み、やがて街は小さくなってゆく。

ゼルは目を閉じ、体を揺れに任せた。

どれだけ強がっても、先程の惨事は瞼の裏に焼き付いている。

同じカタチが、死んで逝く光景。

男も女も老人も子供も。

強者も弱者も犯罪者も善人も。

分け隔てなく与えられた、死の神の福音。

冒涜への罰。

浄化された、魂の器たる肉体でしかないだけのゼルの体が、無意識に震えた。

かつての人間としての魂等ないはずなのに、
心が震えた。

「…大丈夫?寒いのかしら?」

女が、ゼルをのぞき見ていた。潤んだ瞳を、血の色の瞳が捉える。

「…いや、何でもない。気にしないでくれ…」

意識を現世にしっかり結び付け直し、ゼルは答えた。

そのまま席を立ち上がり、列車最後尾のテラスへ向かう。

テラスに出ると、景色と共に錆びたような現世の匂いが広がる。

生暖かい風だが、それでも今のゼルには心地いいものだ。

「お兄さん」

後ろから、またあの女の声。

「この姿はお嫌いだったかしら…?」

自分のせいだと思っているのだろうか。

もういい加減欝陶しく感じ、無視を決め込もうとしたゼルは、次の言葉に息を呑む。

「…ねぇ、さっきビルのてっぺんで何をしていたの?」

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