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神のパシリ 7

[410]  ディナー  2009-10-18投稿
馬鹿な。

常人では行けるはずがなかった場所だ。

ゼルは、最上階から外壁を、重力を無視して歩いて登ったのだ。

まさか…小間使いか。

ゼルがそう認識するよりも一拍早く、女の全身から、白い光が辺りに拡散した。

それは列車の最後尾車両を瞬く間に消し飛ばし、塵芥へと帰す。

乗客は音もなく、列車ごと灰となって風に消えた。

ゼルは身体を縮こまらせ、衝撃から身を守ると共に後ろへ飛び下がった。

ゼルは人の形をした、人でなき人外の存在。

塵芥にはならない。

足が地面に着地し、ゼルの周りに荒廃した土煙が上がる。そのまま態勢を立て直し、眼前の小間使いを睨んだ。

「…人間の事はお構いなしか」

列車は最後尾の連結器だけを付けたまま、鉄の道を彼方へ走り去ってゆく。

「それは貴方だって同じじゃない」

目の前の女は迷いなく微笑みを浮かべている。

「バベルを滅ぼしたのは、貴方ね」

「ふん、だったらどうした。貴様とて分かるだろ。天秤は釣り合わさねばならない」

「貴方の主の事情など興味はないわ。私は私の主の事情を果たすのみ」

「俺もだ。…気が合うな」

ゼルは地面に左手をつけた。

すると、地面が始めからぬかるみであったかのように、ゼルの手は地中に沈んでいく。

それを引き上げたゼルの左手には、自身の身の丈程の大鎌が握られていた。

ゼルにも自我はある。

好きで死の神の小間使いになった訳ではない。

戦っても、相手の主の力が弱まるだけ。自分への利益は少ない。

…だが。

この、美しい女の形をした神のパシリが、

へどが出るほど気に入らない。

光の神や、その小間使いなど元々気に入らないが、光の神の小間使いの、本来あるべきではない、矛盾した立ち振る舞いがますますゼルの神経を逆なでする。

「…汚らわしい、薄汚い死の神の雑用係が」

女の背中がわずかに破れ、質量の法則などまるで無視して、清廉な純白に煌めく大きな翼が現れる。

その翼の羽根を一枚抜くと、羽根を槍先とする、十字架型の長槍へと変貌した。

女は所作など考えずに、股を大きく開き、槍先をゼルへ向け低く構える。

「我が名は、光の神の一翼レミエル。…裁かれよ、雑用係」

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