神のパシリ 7
馬鹿な。
常人では行けるはずがなかった場所だ。
ゼルは、最上階から外壁を、重力を無視して歩いて登ったのだ。
まさか…小間使いか。
ゼルがそう認識するよりも一拍早く、女の全身から、白い光が辺りに拡散した。
それは列車の最後尾車両を瞬く間に消し飛ばし、塵芥へと帰す。
乗客は音もなく、列車ごと灰となって風に消えた。
ゼルは身体を縮こまらせ、衝撃から身を守ると共に後ろへ飛び下がった。
ゼルは人の形をした、人でなき人外の存在。
塵芥にはならない。
足が地面に着地し、ゼルの周りに荒廃した土煙が上がる。そのまま態勢を立て直し、眼前の小間使いを睨んだ。
「…人間の事はお構いなしか」
列車は最後尾の連結器だけを付けたまま、鉄の道を彼方へ走り去ってゆく。
「それは貴方だって同じじゃない」
目の前の女は迷いなく微笑みを浮かべている。
「バベルを滅ぼしたのは、貴方ね」
「ふん、だったらどうした。貴様とて分かるだろ。天秤は釣り合わさねばならない」
「貴方の主の事情など興味はないわ。私は私の主の事情を果たすのみ」
「俺もだ。…気が合うな」
ゼルは地面に左手をつけた。
すると、地面が始めからぬかるみであったかのように、ゼルの手は地中に沈んでいく。
それを引き上げたゼルの左手には、自身の身の丈程の大鎌が握られていた。
ゼルにも自我はある。
好きで死の神の小間使いになった訳ではない。
戦っても、相手の主の力が弱まるだけ。自分への利益は少ない。
…だが。
この、美しい女の形をした神のパシリが、
へどが出るほど気に入らない。
光の神や、その小間使いなど元々気に入らないが、光の神の小間使いの、本来あるべきではない、矛盾した立ち振る舞いがますますゼルの神経を逆なでする。
「…汚らわしい、薄汚い死の神の雑用係が」
女の背中がわずかに破れ、質量の法則などまるで無視して、清廉な純白に煌めく大きな翼が現れる。
その翼の羽根を一枚抜くと、羽根を槍先とする、十字架型の長槍へと変貌した。
女は所作など考えずに、股を大きく開き、槍先をゼルへ向け低く構える。
「我が名は、光の神の一翼レミエル。…裁かれよ、雑用係」
常人では行けるはずがなかった場所だ。
ゼルは、最上階から外壁を、重力を無視して歩いて登ったのだ。
まさか…小間使いか。
ゼルがそう認識するよりも一拍早く、女の全身から、白い光が辺りに拡散した。
それは列車の最後尾車両を瞬く間に消し飛ばし、塵芥へと帰す。
乗客は音もなく、列車ごと灰となって風に消えた。
ゼルは身体を縮こまらせ、衝撃から身を守ると共に後ろへ飛び下がった。
ゼルは人の形をした、人でなき人外の存在。
塵芥にはならない。
足が地面に着地し、ゼルの周りに荒廃した土煙が上がる。そのまま態勢を立て直し、眼前の小間使いを睨んだ。
「…人間の事はお構いなしか」
列車は最後尾の連結器だけを付けたまま、鉄の道を彼方へ走り去ってゆく。
「それは貴方だって同じじゃない」
目の前の女は迷いなく微笑みを浮かべている。
「バベルを滅ぼしたのは、貴方ね」
「ふん、だったらどうした。貴様とて分かるだろ。天秤は釣り合わさねばならない」
「貴方の主の事情など興味はないわ。私は私の主の事情を果たすのみ」
「俺もだ。…気が合うな」
ゼルは地面に左手をつけた。
すると、地面が始めからぬかるみであったかのように、ゼルの手は地中に沈んでいく。
それを引き上げたゼルの左手には、自身の身の丈程の大鎌が握られていた。
ゼルにも自我はある。
好きで死の神の小間使いになった訳ではない。
戦っても、相手の主の力が弱まるだけ。自分への利益は少ない。
…だが。
この、美しい女の形をした神のパシリが、
へどが出るほど気に入らない。
光の神や、その小間使いなど元々気に入らないが、光の神の小間使いの、本来あるべきではない、矛盾した立ち振る舞いがますますゼルの神経を逆なでする。
「…汚らわしい、薄汚い死の神の雑用係が」
女の背中がわずかに破れ、質量の法則などまるで無視して、清廉な純白に煌めく大きな翼が現れる。
その翼の羽根を一枚抜くと、羽根を槍先とする、十字架型の長槍へと変貌した。
女は所作など考えずに、股を大きく開き、槍先をゼルへ向け低く構える。
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