間違いletter 54
「…時間です…」
ついにその時はきた
ゆかが運ばれていく
俺はゆかの手を握りしめる
まだ話したい
まだゆかのそばにいたい
「大丈夫?」
ゆかはゆっくり頷いた
「…俺、待ってるから…」
どんな苦しみも絶対耐える
だからこの先に待っているのが
幸せであってほしい
普通でいいから
ゆかはもう一度頷く
「…ゆか…」
「…た…くや…」
初めて聞いた彼女の声は
消えてしまいそうな声だった
「ゆか…」
もし願いが叶うなら
次に会ったとき
彼女が笑っていてくれたら
それだけでいい
その隣で笑えたら
それだけでいい
そんな幸せ、
これ以上の幸せなんてない
だから…
「…まっ…て…てね…
だ…いす…き」
ゆかの姿が見えなくなる
扉の向こうに行ってしまう
長い廊下に俺は一人
暗いこの廊下に俺は一人
静かに温かな涙が
頬を伝った
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