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神のパシリ 9

[411]  ディナー  2009-10-20投稿
人間か?

だが、人間の声にここまで戸惑った事はない。

ゼルの背後に、フードを被った少女が立っていた。おそらく声の主だろう。

何故だ。身体が、器でしかない身体の奥が震える。

「…お前…何者だ…」

そこまで口走り、ゼルは我に返ってレミエルを見た。

レミエルは忌ま忌ましく卑しいくびきから解き放たれている。手をひきちぎり、槍で薙ぎ払い、脚で踏み潰し。

一瞬の機会を、ゼルは逃したのだ。

「…ちっ」

ゼルは、レミエルを仕留めるのを諦めざるを得なかった。

レミエルが、既に彼へ槍を投擲していたからだ。


それは、もう…

  かわせない。

ぐしゃりと音がして、槍はゼルの体幹を刺し貫いた。

その勢い、衝撃でゼルの身体は後ろへ跳ね、少女の近くの瓦礫に貫いた槍先が突き刺さる。

「フェルゼル兄っ!!」

慌てた様子で少女が駆け寄る。

ゼルとて、身体そのものは人と同じ。血の詰まった肉の袋である。
腹部から激しく血が溢れ、吹き出し、少女をみるみる赤く染めた。

「…ま、ずいな…」

ゼルは槍先を瓦礫より抜き、身体に刺したまま前のめりにひざまづいた。

「…薄汚いパシリが!辱めの報いと共に、私が裁いてやる!」

一歩、また一歩、レミエルが近付く。

その前を、少女が塞いだ。

「や、やめろっ!」

華奢な脚が震えているのが、霞んだ瞳でも分かる。

こういう大事な時に限って、死の神からの援護はない。仕留めたとふんでいるのだろう。

それとも、ゼルにさして執着がないのか。

ちなみに、こちらからの一方的通信はできない。

レミエルは、おそらくこの少女など気にも留めていない。通り道の小石と同じだ。

「…さぁ、死ね」

レミエルの背後に見える、使用済みの魔法陣。

ふと、ゼルがそれを見た、その時。

「…ゆけ!早う退け!」

冥土に住まう少女の声が耳飾りから大きく響いて、

彼方の魔法陣から、再び腕が伸びる。
しかし今度は卑しい亡者のものではない。
もっと強大で、忌まわしい、しっかりした存在だ。

それはレミエルを鷲掴みにし、瓦礫へと叩きつける。

本当に、一瞬の事だった。

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