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スラム part75

[433]  やいち  2009-10-21投稿
不思議だ。

中学からずっと柔道を続けてきた。
試合も何度も経験してきた。
でも今も試合となると緊張する。
不思議だ。

今は、この試合にはそこまで緊張してない。
俺の人生でも、これから始まる試合は1、2を争う大切なものになるはずなのに。

試合畳の上を歩いて行く。普通の畳と違う、柔らかい柔道場の畳の感触がしっかり感じ取れる。

市瀬の正面にたつ。
市瀬の頭の向こう側にギャラリー席が見えた。

あっ。
ギャラリー席によく知った面影の女の子を見つけた。
ほんとに来てくれたんだな。

視線を戻し、再び市瀬を見た。

市瀬の顔には曇りひとつない。

緊張の色もさほどない。
敗けることなんて微塵も考えていないものの目だ。
中学の、あの頃の俺と同じ目だ。
でも、それだけが正しいわけじゃないと思うぜ。
敗けを恐れないものが本当に強いやつじゃねぇよ。
俺は恐いよ。
敗けるのが恐えよ。
でもな。
あの頃みたいなのに戻るつもりもないんだ。
だから勝つよ。
どんなにカッコ悪い勝ち方でも勝つぜ。

市瀬に向かい礼をする。
体をおこしながらほんの少し目を閉じて、また目を開けた。

「はじめぇ!!」

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