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神のパシリ 10

[440]  ディナー  2009-10-21投稿
「…おのれっ!どこまでも下劣なっ!」

レミエルはもがくが、その腕にとっては、ただ赤子が暴れているに過ぎない。

ゼルは脱力した四肢をふんばらせ、ようやく立ち上がると、渾身の力で槍を身体から引き抜いた。

「……っぐあっ!」

血が一気に噴き出し、地面に血だまりを作り出す。

フードの少女が、ゼルに肩を借す。

「しっかり…しっかりしてよ、フェルゼル兄」

「…誰だ…」

漏れる虫の吐息のようなゼルの問い返しには、二つの意味があった。


フェルゼルとは誰だ?


そして、お前は誰だ?


二人は蛞蝓が這うように、瓦礫の影にあった側車付きの二輪車に向かう。

少女は押し込むようにゼルの身体を側車に乗せ、アクセルを一気に吹かした。

耳元で、死の神の声がする。まさに今死の淵へ向かっている己が使いに。

皮肉な光景だった。

「たわけたわけ!わらわがそなたを見捨てるとでも思うたか、このたわけ!残っておった陣より状況が分かったから良かったものの…。
そなたはわらわの分け身ぞ!その美しい瞳の焔を消させるものか!」

「…申し訳…ない…」

「そなたの不備は責めん!何か事情があったのであろ!?」

「……は…」

「それはまた後に聞く!今宵は満月…わらわの力も更に弱まってしまう…。
よいか、ゼル!死して冥土に戻る事まかりならんぞ…!」

「……ぎ、ぎょ…い…」

人の身体。血の入った肉の袋。

脆いものだ。

なんとなく、魂の焔が揺らぐのを感じる。

冥土からの生暖かい風が、焔を小さくし、吹き消さんとしている。

神の小間使いには、常人よりわずかに肉体的には優れている。

驚異的自然治癒力、肉体能力を限界まで引き出す力と、それを制御、操作する神経。

それでも、魂の焔が揺らいでいる。

「しっかり…!死なないで、フェルゼル兄!」

少女の声が聞こえる。

なぜか、魂の焔が声に反応し、ほんのわずかに勢いを戻す。

何故だ…?

何故…この少女は自分に影響をもたらす?

人とは違う、小間使いの自分に、何故人間ごときが…。

ゼルの意識が、ふつりと切れた。

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