がくさ、い 第五場〜後藤くんの話〜
授業が終わると、遠藤さんは「ありがとう。」とにっこり笑って、机を離した。
たった60分の授業が、僕には二時間にも、永遠にも感じた。
机が離れ、僕はやっと緊張の糸がとけた。無意識の内に肩は張り、身体を左の窓にくっつけていたようだ。
「はぁ〜………」
僕は誰にも聞こえないぐらい小さくため息をついた。遠藤さんはそんな僕の様子にはお構いなしで、短い休み時間を存分に楽しんでた。彼女の周りは人で溢れている。いつも。
放課後、学級委員の僕は改訂された台本を職員室に取りにいった。
ノックをする。
すると、秋谷先生と遠藤さんは何か話していた。きっと小説を返して貰いにいったんだろう。けど、やたら二人の距離が近くて、僕は見てはいけないものを見た気がしていた。
遠藤さんが先生の肩に手を置き、顔を近づける。そして何かを囁いた。
先生はいつものポーカーフェイスを崩さずに、しかし素早く、彼女の手をはねのけた。遠藤さんは声を出さずに笑い、身体を少しくねらせ、先生を見た。
「もういいから、早く練習行け。」
先生はいつもと同じ声で言った。
遠藤さんはくるりと身体をひるがえし、僕の居る、ドアまで来た。
「あ、後藤くん。」
「え?」
遠藤さんは何事もなかったかのように出て行った。
先生はやっと僕に気付いたらしく、顔をこちらに向けた。
「後藤か、どうした。」
目を細めて言った。
「あ、台本…取りに……。」
「あー。そこ。まだまとめてないから、お願い。」
「はい。」
僕は先生に指された通り、山になった紙の束を抱え上げた。
重い。
バランスを崩し、足が縺れた。
「おっと……」
先生の大きな手が僕の腰に回された。
「気をつけろよー一人で大丈夫かぁ?」
先生は軽々僕を支えた。大人の男って感じだ。僕は何故か恥ずかしくなった。僕があまりに非力だからだろうか。
「大丈夫…です。」
紙の束を両手でしっかり持ち、職員室を出る。早くこの場から立ち去りたかった。先生と楽しそうに話していた遠藤さんの顔が、頭に浮かぶ。
彼女の大人びた笑顔。先生に向けられた挑発的な顔。
あれは、どういう意味だったんだろう。
たった60分の授業が、僕には二時間にも、永遠にも感じた。
机が離れ、僕はやっと緊張の糸がとけた。無意識の内に肩は張り、身体を左の窓にくっつけていたようだ。
「はぁ〜………」
僕は誰にも聞こえないぐらい小さくため息をついた。遠藤さんはそんな僕の様子にはお構いなしで、短い休み時間を存分に楽しんでた。彼女の周りは人で溢れている。いつも。
放課後、学級委員の僕は改訂された台本を職員室に取りにいった。
ノックをする。
すると、秋谷先生と遠藤さんは何か話していた。きっと小説を返して貰いにいったんだろう。けど、やたら二人の距離が近くて、僕は見てはいけないものを見た気がしていた。
遠藤さんが先生の肩に手を置き、顔を近づける。そして何かを囁いた。
先生はいつものポーカーフェイスを崩さずに、しかし素早く、彼女の手をはねのけた。遠藤さんは声を出さずに笑い、身体を少しくねらせ、先生を見た。
「もういいから、早く練習行け。」
先生はいつもと同じ声で言った。
遠藤さんはくるりと身体をひるがえし、僕の居る、ドアまで来た。
「あ、後藤くん。」
「え?」
遠藤さんは何事もなかったかのように出て行った。
先生はやっと僕に気付いたらしく、顔をこちらに向けた。
「後藤か、どうした。」
目を細めて言った。
「あ、台本…取りに……。」
「あー。そこ。まだまとめてないから、お願い。」
「はい。」
僕は先生に指された通り、山になった紙の束を抱え上げた。
重い。
バランスを崩し、足が縺れた。
「おっと……」
先生の大きな手が僕の腰に回された。
「気をつけろよー一人で大丈夫かぁ?」
先生は軽々僕を支えた。大人の男って感じだ。僕は何故か恥ずかしくなった。僕があまりに非力だからだろうか。
「大丈夫…です。」
紙の束を両手でしっかり持ち、職員室を出る。早くこの場から立ち去りたかった。先生と楽しそうに話していた遠藤さんの顔が、頭に浮かぶ。
彼女の大人びた笑顔。先生に向けられた挑発的な顔。
あれは、どういう意味だったんだろう。
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