がくさ、い 第六場〜後藤くんの話〜
教室に戻ると、机や椅子は後ろに下げられ、いつでも練習できる状態になっていた。僕は演劇部だという理由だけで、演出をすることになってしまった。要は押し付けられたのだ。学級委員と一緒で。やりたくないことは全部僕に回ってくる。
それでもいい。それで丸く収まるのなら。我慢するのや、諦めるのは得意だ。最初から何も望まなきゃ良いんだ。期待しなけりゃ失うことだってない。
「後藤おせぇよ〜」
松田くんが言う。クラスのお調子者で、サッカーが出来て、女子には人気があるみたいだ。
「ごめん…」
僕は今日、何十回目かの「ごめん」を言った。
遠藤さんが苦い顔をしてるのが分かる。見えなくても、気配で感じるのだ。きっと僕のことを臆病で、弱い男だと呆れているに違いない。
「これ、台本だから…みんな一枚ずつ、取っていって。まだまとまってないから…これ、ホチキスでとめて下さい。」
僕は抱えていた紙の束を机に置く。しかし高い山はバランスを崩し、見事に崩壊した。山の頂上は壊滅状態だった。
「あ…ごめ……」
僕は慌てて拾う。
「ほんっととろいよな〜後藤は。」
悪意のある声と、嘲笑が起こる。人は誰かを馬鹿にしたくてうずうずしてるのだ。常に。
「何が可笑しいの?」
凜とした声が響く。遠藤ユミコだ。その場に緊張という名の針が刺さったように、空気が揺れた。
「大丈夫?」
そう言って瀬戸さんは僕の横に来て、台本を拾ってくれる。
遠藤さんもまた、一緒に拾ってくれた。
いつの間にか笑い声はなくなり、さっきまで笑っていた人も地面に這いつくばり、一緒に紙を拾っていた。
遠藤さんの影響力は凄い。
改めて、僕は感じた。
再び高い山が出来上がった。
「ごめん…」
罰が悪くて、他にいい言葉も見付からなくて、僕はまた謝っていた。
遠藤さんが笑いながら僕の肩を叩いた。
「こーゆー時はありがとう、だよ。後藤くん。」
僕は叩かれた肩を押さえながら、
「ありがとう…」
と皆に向かって、掻き消されそうな声で言った。
「いーよ、別に。」
誰かが照れたように言う。
「気にすんなよ。」
他の誰かも言う。
僕はこめかみの辺りを少しかいた。
それでもいい。それで丸く収まるのなら。我慢するのや、諦めるのは得意だ。最初から何も望まなきゃ良いんだ。期待しなけりゃ失うことだってない。
「後藤おせぇよ〜」
松田くんが言う。クラスのお調子者で、サッカーが出来て、女子には人気があるみたいだ。
「ごめん…」
僕は今日、何十回目かの「ごめん」を言った。
遠藤さんが苦い顔をしてるのが分かる。見えなくても、気配で感じるのだ。きっと僕のことを臆病で、弱い男だと呆れているに違いない。
「これ、台本だから…みんな一枚ずつ、取っていって。まだまとまってないから…これ、ホチキスでとめて下さい。」
僕は抱えていた紙の束を机に置く。しかし高い山はバランスを崩し、見事に崩壊した。山の頂上は壊滅状態だった。
「あ…ごめ……」
僕は慌てて拾う。
「ほんっととろいよな〜後藤は。」
悪意のある声と、嘲笑が起こる。人は誰かを馬鹿にしたくてうずうずしてるのだ。常に。
「何が可笑しいの?」
凜とした声が響く。遠藤ユミコだ。その場に緊張という名の針が刺さったように、空気が揺れた。
「大丈夫?」
そう言って瀬戸さんは僕の横に来て、台本を拾ってくれる。
遠藤さんもまた、一緒に拾ってくれた。
いつの間にか笑い声はなくなり、さっきまで笑っていた人も地面に這いつくばり、一緒に紙を拾っていた。
遠藤さんの影響力は凄い。
改めて、僕は感じた。
再び高い山が出来上がった。
「ごめん…」
罰が悪くて、他にいい言葉も見付からなくて、僕はまた謝っていた。
遠藤さんが笑いながら僕の肩を叩いた。
「こーゆー時はありがとう、だよ。後藤くん。」
僕は叩かれた肩を押さえながら、
「ありがとう…」
と皆に向かって、掻き消されそうな声で言った。
「いーよ、別に。」
誰かが照れたように言う。
「気にすんなよ。」
他の誰かも言う。
僕はこめかみの辺りを少しかいた。
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