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神のパシリ 11

[399]  ディナー  2009-10-22投稿
停滞した刻。

うつろわない景色。

ただ、そこにある、此岸と彼岸。

気がつくと、ゼルはそこにいた。

彼方には、流れを知らぬ川と、浮かぶ一艘の小船。

その傍らに立つ、フードを目深に被った人影が、少し驚いた様子で声をかけてくる。

「…おや、小間使い殿。皮肉な再会ですな」

渡し守なのだろう。手には櫂が握られている。

「まさか、ここに来られてしまうとは」

渡し守は、穏やかに笑っているようだった。

「あなたが死者として渡られたら、神はさぞ悲しむでしょうなぁ。

あなたのそのいでたちを神は大変気にいられ、自らの魂を小さく小さく分け、練り、小間使いとしたのです。

小間使いと言ったら粗末に感じるでしょうが、そんな事はありません。

死の神も、命を扱うお方。命には慈しみもありますし、命を、存在を創る憧れもあったのです。

間違っているのは、他の神と、福音をねじまげた人間です。

死は悪ではない。

光に影があるように、必然の存在なのです。

死があるから、
命には限りがあるから、人は輝く、輝こうとするのですよ。

今の人間は、それを忘我の彼方へ追いやろうとしています。

確かに、死は恐ろしい。

痛みもあるし、経験も、連れ添った他者も、地位も名誉も財産も全て失ってしまう。

そして何より、自分という存在が消えてしまう恐怖は何にも変え難い。

ですが、生まれたら、いずれ死ぬ。

始まれば、いずれ終わる。

それは、命だけではない、【存在】という定義においての必定なのです。

貴兄は、その代弁者。

実は貴兄は、自らが思うより大きな存在なのです。」

長い口上に、ゼルの瞳がやるせなさを帯びて曇った。

「…主に、謝らねばならんな」

また、フードの下で渡し守が皮肉を含んで微笑んだ。

「大丈夫、貴兄は渡らない。いや、渡れないのです」

「…?」

「…ほら、そこに」

渡し守がフードをついと上げ、その眼ともとれぬ暗い瞳が、ゼルの後方をさした。

振り返ると、

あの少女が、ゼルの上着をしっかり握っている。

「貴兄は、まだ死者ではない。

  戻りなさい」

そしてまた、渡し守は穏やかに微笑んだ。

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