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子供のセカイ。80

[343]  アンヌ  2009-10-23投稿
「私は、謝らなければいけないわ。本来なら私たちが、“闇の小道”から光の子供を助けなければならないのに。」
覇王……。呟いたホシゾラの声に、隠しようのない憎悪がこもっていて、美香はやっぱり、と眉を寄せた。
「覇王が入り口を塞いだことは、ジーナから聞きました。あなたたちのせいなんかじゃないわ。」
ホシゾラの責任ではない。元凶はすべてあの恐ろしい男にあるのだ。
美香の表情に影がさした。そして、それは覇王を生み出した舞子のせいでもあることを、姉の自分は認めなければならない。
それにしても、ホシゾラは未だ本題に入る様子がない。美香はかまをかけるつもりで言ってみた。
「扉はどうしても開かないの?それとも、」
私が犠牲を払うならどうにかできるの?
ホシゾラが唾を飲み込む音が、静かな部屋で微かに聞こえた。
美香はすかさず言い募った。
「そうなんでしょ?だったら話は早いわ。私はさっきも言ったように、覚悟ならもうできてるもの。」
「……例え、本当に『命』を失うことになっても?」
ホシゾラは、“生け贄の祭壇”を形作る石壁のように固い口調で言い放った。
美香はハッと口をつぐんだ。
命。深く考えたことはなかった。命を懸ける、という言葉も、ただ言葉の綾として使っていただけで、それほどの危険に飛び込むつもりだ、という意味だと思っていた。
だが、“闇の小道”を開くための犠牲が、本当に美香の『命』そのものだとしたら……。
(自分が、もし死んだら。)
美香はゾッと背筋が寒くなり、胸の中におぞましいものが込み上げ、気持ち悪くなった。嫌だ。その一言が頭を占めた。嫌だ、嫌だ、死にたくない……!美香はシワがつくほど強く膝の上のスカートを握った。でも、耕太は――。
幼なじみの笑顔が脳裏に閃く。
“闇の小道”で最後に見た耕太は、優しい顔で、笑っていた。

「おう、待ってる。」

待ってる――。
胸がじんわりと温かくなった。目頭が熱い。どうしてだろう。今はこんな温かい気持ちになる時ではないはずのに……。
信じられてるからだわ。美香は不意に悟った。耕太に信じられている。絶対に美香が助けに来てくれると信じて、耕太はずっと待ってくれているのだ。
人に信頼されるということが、こんなに嬉しいことだなんて思わなかった。美香は固くつむっていた瞼を持ち上げ、薄く微笑んだ。

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