神のパシリ 12
引き戻される感覚が、確かにあった。
何かに、心を掴まれ、引き上げられるように、
ゼルは、その眼を開いた。
さぁぁ、と何かが流れるような音が、彼方でする。
雨音だ。耳に心地いい。
身体は、だるくもなければ重くもない、健常体だ。
使いは、命の消える峠さえ越えれば、回復は早い。
どうやら、ゼルは寝かされていたらしい。ゼルの身体には毛布のような物がかけられていて、その上から少女が、ゼルの腹部辺りに突っ伏している。
フードはとれていて、顔があらわになっていた。
死の神より、少しだけ大人びた、女を帯びた顔。長い睫毛をたたえた瞳は閉じられ、厚めの艶のある唇が小さく開いて寝息が漏れている。
小麦色に焼けた肌が健康的な色気を放つ身体は肉付きも良く、それがより女らしい丸みを持ったライン、脚線を生んでいる。
決して太いわけではなく、肌色、艶ともに健康的な美しさ、艶っぽさだ。
…だが、知らない。
その少女と女の狭間の者を、ゼルは知らない。
…だが、知っているようだった。
その少女と女の狭間の者は、まるで自分を知っているかのように、自分を全く知らない名前で呼んだ。
そして、おそらくここに保護してくれた。
ゼルは音もなくベッドから降りた。
「…んっ、うぅん…」
少女をゆっくり抱き上げ、ベッドに寝かせ、さっきまで自分がくるまっていた毛布を、はだけた豊かな胸元が隠れる辺りまでかける。
雨音は、この部屋の外から聞こえる。
ゼルは雨音を聞きながら、耳飾りを外し、尖端で壁に陣を薄く彫り込んだ。
こうする事で、主に自らの居場所を知らせるのだ。
応答はすぐにあった。
「…ゼルか。どうやらまだ命はあるようじゃの」
「はい。先程はお手を煩わせてしまいまして…」
「もうよい。して、今は?」
「人間に助けられました」
「…ほぅ」
主は、興味深そうに声を少しだけうわずらせる。
「今は傷も完治しております。…ですが、気になる事が」
「何じゃ?」
「俺を助けた人間は、俺を知っているようで…フェルゼルと俺を呼びました」
「…ほぅ」
小間使いの主の声色が、低く温度を下げた。
何かに、心を掴まれ、引き上げられるように、
ゼルは、その眼を開いた。
さぁぁ、と何かが流れるような音が、彼方でする。
雨音だ。耳に心地いい。
身体は、だるくもなければ重くもない、健常体だ。
使いは、命の消える峠さえ越えれば、回復は早い。
どうやら、ゼルは寝かされていたらしい。ゼルの身体には毛布のような物がかけられていて、その上から少女が、ゼルの腹部辺りに突っ伏している。
フードはとれていて、顔があらわになっていた。
死の神より、少しだけ大人びた、女を帯びた顔。長い睫毛をたたえた瞳は閉じられ、厚めの艶のある唇が小さく開いて寝息が漏れている。
小麦色に焼けた肌が健康的な色気を放つ身体は肉付きも良く、それがより女らしい丸みを持ったライン、脚線を生んでいる。
決して太いわけではなく、肌色、艶ともに健康的な美しさ、艶っぽさだ。
…だが、知らない。
その少女と女の狭間の者を、ゼルは知らない。
…だが、知っているようだった。
その少女と女の狭間の者は、まるで自分を知っているかのように、自分を全く知らない名前で呼んだ。
そして、おそらくここに保護してくれた。
ゼルは音もなくベッドから降りた。
「…んっ、うぅん…」
少女をゆっくり抱き上げ、ベッドに寝かせ、さっきまで自分がくるまっていた毛布を、はだけた豊かな胸元が隠れる辺りまでかける。
雨音は、この部屋の外から聞こえる。
ゼルは雨音を聞きながら、耳飾りを外し、尖端で壁に陣を薄く彫り込んだ。
こうする事で、主に自らの居場所を知らせるのだ。
応答はすぐにあった。
「…ゼルか。どうやらまだ命はあるようじゃの」
「はい。先程はお手を煩わせてしまいまして…」
「もうよい。して、今は?」
「人間に助けられました」
「…ほぅ」
主は、興味深そうに声を少しだけうわずらせる。
「今は傷も完治しております。…ですが、気になる事が」
「何じゃ?」
「俺を助けた人間は、俺を知っているようで…フェルゼルと俺を呼びました」
「…ほぅ」
小間使いの主の声色が、低く温度を下げた。
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