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MLS-001 030

[835]  砂春陽 遥花  2009-10-25投稿
花鼓の頭の中に、
真龍の言葉は、
細い棘のように
引っかかった。

「ねえ、花鼓。」

「ん?」

「あっ、
呼び捨てでいい?」

不安げに
花鼓の顔を覗き込む真龍。

その真っ直ぐな
瞳に気付き、
花鼓は、
慌てて笑顔で付け加えた。

「いいよいいよ、なになに?」


「手、繋いでも、いい?」

刹那、真龍のためらいが
風となって
2人の間を舞った。

「さっき、みたいに。」

うなずいて
花鼓が差し出した右手を、
真龍の細い左手が
しっかりと握った。

花鼓に笑いかけた笑顔は、
海面を跳ねる
太陽の光のように、
眩しかった。



「ほとんど
覚えてないけど、」

握ったお互いの手の温かさが、
2人の心を
ゆっくり
過去へいざなう。

「よく、こうやって、
手を繋いでもらってたの。
こっちの手が
姉さんだったら、」

真龍は、
花鼓と繋いだ左手を
軽く振った。

「こっちが、父さん。」

今度は、
膝の上の右手を挙げ、
空をつかんで、
下ろした。

「お母さんは、
不公平になるから、って
毎回、
右手が私、
左手が姉さん
だったんだけど。

お父さんだけのときに、
こっそり
おねだりして、
やってもらった。

両手を
繋いでもらって、
歩く足が疲れたら、
2人の手に
ぶら下がっちゃうの。

それ、やる度に
お姉ちゃんに、
すんごい、にらまれた。

怖かったなあ。」

少女は、
話しながら
おどけた調子で笑った。

何か気の利いた台詞の
一つや二つ、
言えれば良かったが、
不吉な予感に導かれた
やる瀬なさに気圧され、
花鼓の頭には
生憎、何も浮かばなかった。

真龍の心の中で、
束の間、
花のように蘇った
幸福な気持ちを、
寄せては返す波の音が、
少しずつ
洗い流していった。

「私も
苦しかったけど、
母さんも
苦しかったと思う。」

真龍の手に、
力がこもった。

花鼓は、
言葉にならない思いを込めて、
その手を
しっかりと握り返した。

感想

  • 28090: 翔:真龍の、少女らしい仕草と、哀しみを帯びた表情が [2011-01-16]
  • 28091: 翔:目に浮かびます。 [2011-01-16]
  • 28604: 書いてない表情まで読み取って頂き嬉しい限り♪台詞を文字に [2011-01-16]
  • 28605: する難しさに悩まされた回でした(笑:遥花 [2011-01-16]

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