「ひどい事故だったみたい。
父さんは、
ほとんど即死だったって。」

熱気を帯び始めた
防波堤の上。

刻々と強くなる
太陽の光に促され、
真龍は
ゆっくりと話し始めた。

「私と姉さんは、
手術に手術を重ねて、
やっと生き残ったけど、
管に繋がれたまま、
一年、眠りっぱなし。

お母さん、
たった一人で
私達の看病しながら、

少しずつ仕事して、
生活費も切り詰めて、

それでも、
一年経つ頃には
貯金の底が見え始めた。

人工呼吸器も点滴も
なくなったら、
子ども達は
死んでしまう。

不安を感じ始めた頃、
お医者さんの紹介で、
博士に会ったんだ。」

真龍は
徐々に語気を強めた。

花鼓は、
身じろぎもせずに
その言葉を聴いていた。

「お医者さんは、

国家機密になるので
詳しくは言えませんが、

世界的にも新しい分野で
最先端の研究を
している人です、って
言ったんだって。」

少女は一息つくと、
不自然に明るい声で
吐き捨てた。

「そんな話、
普通、信じないよね。
馬鹿馬鹿し過ぎる。」

言葉が、
花鼓の口を突いて出た。

「そんなことない。」

口に出すや否や、
自分の言葉の
無責任さに震えて、
花鼓は、目を伏せた。

他方、真龍は、
驚くでもなく
怒るでもなく、
自分自身に応えるように
短く「うん。」と頷いて、

そして、
それっきり、
２人とも
長い間何も言わなかった。





花鼓が入院していた病院から
程近いカフェの中。

高く昇った太陽は、
青々と繁る木葉の影を、
なめらかな
テーブルの表面に、
映し出す。

風が吹くと
木葉はそよぎ、
黒色と茶褐色の境界線の中に、
溢れ出る生命力を
一層、際立たせた。

明広と皇鈴は、
２杯のコーヒーを
はさんで、
静かに喋っては黙し、
明るく笑っては黙し、
ゆっくりと、今へ通じる道を
歩んでいる。

「明広くん、どうして
貴方が
６階の休憩室に居るって、
私に分かったと思う？」

皇鈴が、
唐突に訊いた。

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