溺れる魚 11
いつものように病院で業務をこなしていると、受付に郁恵が来ていた。
「郁恵?どうしたの?」
「真理。実は新が熱出しちゃって。ごはんもまともに食べられないのよ。で、ここに来たわけ」
郁恵の視線の先にマスクをしてうずくまっている新がソファに座っていた。
「診察の順番が来たら、呼ぶから。待ってて」
新は診察を受けた後、点滴のためベッドに横になっていた。
「友達の子供なんです。入ってもいいですか?」
看護師に断り、処置室に入る。
「新くん…気分どう?」
「……」
「…ゆっくり休んで、はやくよくなってね」
「……」
私のことをあのまっすぐな目で見ている新は、何もしゃべらない。
新の沈黙は、私を拒絶しているようで、私は居たたまれず席を立った。
「待って…」
新は私の手を、力の入らない手で握ってきた。
「そばにいて…」
熱で朦朧としているみたいだった。
その後寝息を立てて新は寝てしまった。
そっと新の手を離そうとした時…
「岸…さん」
新は、私の名前を、寝言で呼んだ。
続く
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