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神のパシリ 19

[410]  ディナー  2009-11-01投稿
人が作る建物は、どうしてこう、芸術性に欠くのだろう。

木材のように、ただ突き立てられただけのビルを見上げるゼル。

レミーシュが傘の花を畳み、二人はそこへ入った。

渦巻いている、黒い感情と欲望たち。

薄暗い空間に、いくつもあるのが分かる。

まるで暗闇にたむろする黒兵隊蟻のように。

「…おい、売女ッ」

「きゃっ!?」

不意に、レミーシュの豊かな胸が鷲掴みにされて潰れた。

「…っく!」

「フェルゼルの糸屑ズベ公が何しに来たァ?」

全身を、呪符の書かれた布で覆った男が、汚らしい手でレミーシュを弄んでいる。

「フェルゼルが死んでから、ただの囮にくらいしかならねぇ売女がッ」

頭にくる神の垢だ。

苛立つ声量に、ゼルは男の首を掴みあげた。

「…下劣な奴」

男の血相が変わる。

「…お、おメェ…!フェルゼル…!?」

「…違うし、どっちでもいい」

ゼルは握力を強め、呪符ミイラのような体をレミーシュから引きはがす。

「…リ、リーダーに会いに…メッツェの計らいで」

屈辱で唇を引き絞り、レミーシュは呻くように言う。

「…けっ、フェルゼルに、引退した燃えカス野郎か。せいぜい二人にそのカラダで『ご奉仕』してな……ぎゃっ!」

「ミイラのくせにうるさい奴だ」

男をいとも簡単に後方へ投げ飛ばし、ゼルはブーツを再び鳴らして歩き出した。肩を震わせながら、レミーシュが続く。

「…ごめん、ゼル」

「何がだ」

「気分悪いよね…?」

「良くはないな」

「私…主な仕事は『カラダ』を使って囮になる事なんだ…。それくらいしか、できないの…」

「…確かに、お前のカラダはいいエサになるだろうな」

ゼルは、その赤い瞳を出来るだけ温めて、レミーシュを一瞥した。

傍から見たらそれでも鋭気に満ちた瞳だが、レミーシュは理解し、微笑んだ。

「…ありがと」


…暗闇が、ざわつく。

ざわめき、畏怖し、混乱し。

それは、ゼルがフェルゼルに似ているからだろう。

二人は暗闇からの視線を浴びながら、一部屋の空間に引き出された。

「ようこそ、可愛い来訪者ちゃん」

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