戦場の恋人達 1
夜は暗く静かだった。昼間の遥か彼方から轟く戦場の地響きや爆音も今はなく、闇と静寂だけが世界を支配していた。
その暗闇に溶け込むように、二体のロボットが向かい合って立っていた。
二体ともボディーは漆黒で、がっしりとした大型の方のロボットはコンバット・ロボット通称『C・R』と呼ばれる歩行型戦闘用ロボットだった。
少し小型のもう一体は、腕に赤い十字の入った白い腕章をしている看護用ロボットである。
大型のロボットが看護用ロボットの手を取り、重い口を開いた。
「今日、上官に呼ばれた。僕に出撃命令が出た。明日の朝、日の出とともに僕は戦場に行く。それが僕達『C・R』として造られたものの宿命なんだ」
うつむいて彼の話を聞いていた看護用ロボットがゆっくりと顔を上げ彼を見た。
彼女は消え入りそうな声で聞いた。
「どうしても行くの?」
彼は無言のままうなずいた。
「誰も帰ってはこないのよ。戦場に行った『C・R』達は誰も生きては帰ってこない。それでも行くの?」
「だが僕達は命令が絶対だ。それに逆らう事は許されない。出撃命令が出た以上、僕は戦場に行かなくてはならない」
「怖くないの?」
「怖いさ!今、君とこうして話してる間も、僕は震えている。怖くてしかたないんだ。僕は臆病者なんだよ」
「違うわ、あなたは優しいのよ。他の『C・R』達はなんの感情もなくただ無表情で、恐れも迷いもなく戦場に行く。でも、あなたは違う……だからよけいに悲しい…」
そう言って、彼女はまた顔を伏せた。
だが、その瞳から涙はこぼれなかった。そのような機能は備わっていなかったからだ。
短い沈黙。
二人の時間は残り少なく、日の出の時はもうそこまで来ていた。
「約束して!生きて私の所に帰ってくるって。たとえどんな姿になっても、生きて私の所に帰ってくるって……私、直すから!あなたを必ず直すから。だから約束して。きっと帰るって。私、待ってるから!いつまでも待ってるから」
だが彼は何も言えなかった。その約束をする事が出来なかった。
『C・R』が戦場に行けば、生きて帰れる可能性はゼロだった。
最前線での彼等の役目は単なる弾除けでしかなく、そのボディーは粉々に砕かれ、部品は飛び散り、そしてやがては機能が停止する。無機質な金属の残骸となり、戦場に放置される。
感想
感想はありません。
「 矢口 沙緒 」の携帯小説
- にゃんこの見る夢
- 欲望という名のゲーム?後書きという名のお礼
- 欲望という名のゲーム?チェックメイト
- 欲望という名のゲーム?132
- 欲望という名のゲーム?131
- 欲望という名のゲーム?130
- 欲望という名のゲーム?129