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君に捧ぐ 〜19〜

[357]  k-j  2009-11-12投稿
 あの夜どんな会話があったか詳しく覚えていない。
 覚えているのは、話を聞いているときに、君がそっと僕の手を握ってきたこと。
 それはとても静かな動きだったのに、怒っているように荒々しく、またすがりつくように力強かった。
 君を見た。
 怒ったようにうつむいていた。
 僕は迷ったが、強く握り返した。
 君の目から涙が流れた。
 僕の手がさっきよりも強く握られた。
 気が付くと僕も泣いていた。
 君の手はとても暖かかった。

 そしてもう一つ。僕に最初に話し掛けてきた男の人の言葉。
「どんな状況でもその瞬間を楽しめ」
 どんな辛いときだって、見方次第で良いこともある。人生は一回きりだ。楽しまなきゃ損だぜ?
 そんな言葉が印象的だった。
 その通りだと思った。いつかそんな大人になりたいと思った。
 その部屋に居る人はみんな“今”を生きていた。
 今したいことをする。
 そのときの気分で行動する。
 その部屋にはそんな空気があった。
 そのだらっとした空気はとても居心地がよかった。
「頑張んなくていいんだぜ?」
 そう言われてるように感じた。

そうして、だらっとした空気の中で僕達は仲直りした。したと思っていた。
 君は突然立ち上がり、帰ると一言言って部屋を出ていった。
 仲直りしたのだから当然一緒に帰るのだろうと思っていた僕は、あまりに突然のことにただ唖然としていた。
「ほら、何してんの? 追っかけなさい!」
 女の人が僕の背中をどついた。
 我に帰った僕は、お礼もそこそこに部屋を飛び出した。
 一気に階段を降りたが、君の姿は見えない。
 君の名前を呼びながら駅まで走った。
 どこにもいない。
 どこにいる?
 もう電車に乗ってしまうかもしれない。
 券売機に駆け寄り一番安い切符を買い、改札をすり抜けホームに走った。
 やはりいない。
 自分の鼓動と息しか聞こえない。
 僕はベンチに倒れ込むように座った。
 汗が滝のように出ている。
 呼吸が落ち着き体勢を元に戻す。
 いた。
 線路の向こうの道路に君はいた。
 僕はさっき降りたばかりの階段を駆け上がった。
「大事なものを忘れてしまったんです」
 改札横の駅員に切符を渡し、階段を駆け降りた。
 君がいる。
 僕は言った。
「一緒に帰ろう」
「うん」
 君は泣きながら頷いた。
 君の手を握る。
 とても暖かかった。

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