幸せをきみに -届け、この歌- 7
翔ちゃんはいつも
あたしの家の前で
ばいばいする。
けど、今日は
翔ちゃんは用があるらしく
あたし達は途中で別れた。
翔ちゃんと別れて
緩やかな坂道を一気に下る。
そこから少し進めばもう家や。
小学校の時に
すぐそばの古い団地から
移り住んだこのマンションは
建てられてからもう
10年ほどになるのに
最近塗り変えられた
ペンキのせいもあって
まだ新しく見える。
マンションに向かって
一直線に進んでいると
その入口の前に
誰か立っているのが見えた。
あたしの頭にはいつもの
密かな願いが浮かんで
その人に近づけば近づくほど
あたしの胸は
奇妙に高鳴った。
ありえない。
今まで何度も
そうであってほしい、
そう願ってはその期待は
あっさり裏切られてきた。
でも今、その姿が
だんだんはっきりしていくほど
あたしの期待もはっきりした
確信に変わっていく。
そしてあたしは自転車を降り、
ゆっくりと“彼”に近づく。
今まで
何回思い出したんやろう
忘れたくない
消えないで
そうやって何度も願って
思い浮かべた笑顔。
また見れたなら、
と密かに願った。
そしてその願いは今、
叶ってしまった
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