魔女の食卓 18
戸倉
「それはどうかなぁ。
だって、大西麗子よりも魅力的な女なんて、めったにいないよ。
それにさぁ、部長は簡単にその辺の女に引っ掛かるような、ふわふわした男には見えないしさぁ」
山口
「あたし、もうひとつ気になる事があるのよねぇ。
部長の態度がおかしくなったのはさぁ、あの夜からなのよね」
戸倉
「あの夜って?」
山口
「川島さんを車の助手席に乗せて、どこかへ出掛けるの見たっていったでしょ。
あの次の日から様子が変なのよね。
部長の早帰りが始まったのは、あの翌日からなのよ。
それにさぁ、今週いっぱい川島さんは休暇を取ってるのよね。
もしかしたら、毎晩川島さんの所に通ってるんじゃないかな」
戸倉
「あのねぇ、冗談を言うんだったら、もっとリアリティーのある冗談を言ってよ。
いくらなんでも、部長が川島さんにメロメロにされるわけないじゃない」
朝倉
「そんな事は物理的にも有り得ないわよ。
言っちゃ悪いけど、川島さんはあたし達女性から見たって、あまりにも悲惨な状態よ。
そりゃ、男の中には変わった趣味の人もいるわよ。
太ってる人が好きだったり、極端に歳上好みだったり。
でも、川島さんはないわよ。
趣味の域を越えてるもの」
山口
「そうよねぇ、常識で考えたって不自然だもんね。
でもさぁ、部長のあの様子は、やっぱり女だと思うのよねぇ。
ねぇねぇ、もしもよ、もし女だとしたら、いったいどんな女だと思う?
あの大西麗子を放っぽりっぱなしにして、部長が通いつめる女って?」
戸倉
「ミス・インターナショナル日本代表とか」
山口
「テレビタレントとか」
朝倉
「あたしはそんなんじゃないと思うな。
もし、あの部長を虜にするような女だったら、きっとそれは『魔性の女』よ」
大西麗子は朝からイラだっていた。
先週は石崎武志と一度も会う事が出来なかった。
それどころか、ここ十日ばかり、まともに連絡もつかない。
土曜日の朝にやっと携帯が繋がったと思ったら、これから出張に行く、と言われてしまった。
帰りは日曜日の夜遅くだと言う。
彼が普通よりも忙しい人間だという事は承知していた。
それは自分も同じ事で、だから、二人が思うように会えなくても、それはそれで仕方のない事だった。
だが、それにしても納得がいかなかった。
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