魔女の食卓 24
土、日の休日は昼までには川島美千子の家に行き、昼食を食べ、夕食を食べて、クッキーをもらって帰る。
そんな毎日が、この二週間続いていた。
石崎武志は知らず知らずのうちに、すべての食事を、そしてすべての食物を彼女に依存していた。
川島美千子の作る物しか口にしなくなり、またそれ以外の物は、食べる気さえしなかった。
彼にとって川島美千子は、生きるうえで絶対的に必要な存在に成りつつあった。
彼女は彼の味覚を支配し、彼の私生活を、そして彼の人生をも侵略し始めたのだった。
石崎武志はすでに彼女を切り離した生活は考えられなくなっていた。
たとえ、ほかのものを犠牲にしてでも…
「あの、川島君ちょっと」
デスクでパソコンの画面を見ていた川島美千子の背後から、石崎武志が声をかけた。
「はい、なんでしょう、部長」
彼女は澄まして応える。
この社内では、石崎武志と川島美千子はただの上司と部下であって、それ以上の関係は決して悟られない。
それが二人の暗黙のうちの了解だった。
二人が毎晩会っていることも、休みの日には、ほぼ一日中一緒にいる事も、それは二人だけの秘密の儀式であった。
「この書類なんだが、ちょっと計算をやり直してくれないかな」
そう言って、石崎武志は彼女のデスクの上に一枚の紙を置いた。
「はい、分かりました」
「じゃ、頼んだよ」
彼はそう言って、自分のデスクに戻っていった。
川島美千子は彼の置いていった紙を見た。
それは決して書類などではなく、彼からの手紙だった。
『今夜はどうしても行けない。
藤本専務が自慢のフランス料理店に僕を招待したいという。
立場上断りきれない』
しばらくして、川島美千子が石崎武志のデスクに向かった。
「部長、計算し直してみました。
間違いはないようです」
そう言って、一枚の紙を彼のデスクに置いた。
彼女からの返事である。
『分かりました。
今夜は諦めます。
そして、お願いがあります。
その店で出されたすべての料理の、その使われている食材と料理法、そして盛り付けを、出来るだけ正確に記憶してきてください』
その返事の意味するところが、彼には完全には理解できなかった。
ただ単に、彼女の料理に対する好奇心だと思っていた。
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