魔女の食卓 29
「お待ちどう様でした」
そう言って、川島美千子は皿を二枚持って出てきて、それを二人の前にそれぞれ置いた。
その皿の中央には直径も高さも五センチほどの円筒形の物があって、それは三色の三層に分かれていた。
一番下の赤は細かく刻んだトマト、中央の白は手で小さくほぐした塩鱈、一番上の黄色い層は、やはり細かく刻まれた黄トマトである。
その上に何種類かの生ハーブが乗せられている。
その円筒形をぐるりと囲うようにして、小さな茶色い豆とスライスされたオリーブが配置されていて、全体に透明に近い白色のソースがかかっている。
「これはいったいなんだ!」
そう言って、藤本は川島美千子を睨んだ。
「こちらは、
『鱈のサラダとレンズ豆の冷製オードブル』
で御座います」
彼女は澄まして答える。
「それは分かっている!
何の冗談かと聞いているんだ!
君らは二人で、わしをからかっているのか!」
藤本の前に置かれたその料理は、先日のフランス料理店で出されたオードブルと寸分違わぬ物だった。
その使われている食材、食材の切り方、そして盛り付けまでもが、まったく同一の物だった。
見た目だけを比べたら、区別がつかないほどだ。
川島美千子は藤本の罵声を無視して、一緒に運んできた白ワインをそれぞれのグラスに注いだ。
ただし、グラスに二分目ほどである。
「これはタイ産の
『シャトー・ド・ルーイ』
というワインです。
決して高いワインではありませんが、この料理にはピッタリだと思います」
「ふざけるな!
こんな素人がマネて作った物が、あの店の料理にかなうわけないじゃないか!」
「あの、専務。
そんな事言わずに、一口だけ召し上がってみてください。
一口でいいんです」
石崎武志が哀願するように言うので、藤本は仕方なくフォークを手にした。
「ふん!
こんな物が…」
そう言って、その一部をフォークですくうと、口に運んだ。
その途端に、藤本の顔色が変わった。
その様子を石崎武志はじっと観察していた。
結果は分かっていた。
ただその時に藤本がどんな顔をし、どんな声を上げるのか。
それを楽しんでいた。
「まさか!」
藤本は驚嘆の声を上げ、目の前に置かれた料理をもう一度見た。
そして、再びフォークで口に運ぶ。
「信じられん!
まったく同じ食材を使っていながら…
ソースだ!
このソースの味と香りは…」
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