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魔女の食卓 30

[371]  矢口 沙緒  2009-11-22投稿


そう言って、料理に目を据えたまま、無意識にワインを手に取り口にした。
そして今度は、藤本の目が、料理からワイングラスへと移動した。
驚くべき相性。
よく
『この料理には、このワインが合う』
と簡単に言う。
しかし、これはどうだ!
『合う』
と言う言葉を越えている。
この料理には世界中のワインの中で、このワインしか適合しない。
この料理とこのワインは、この世で唯一無二の完全なる組み合わせだ。
なんという料理、そして、なんというセンス!
「き、君…
これは?」
藤本はテーブルの横に立っている川島美千子を見上げた。
彼女はただにこやかに笑っている。
その笑顔が、彼の問に対する彼女の答だ。
藤本は再び料理に目を戻すと、無言でそれを口に運び、そしてワインを飲み…
やがて最後の一口を食べ終え、ワインを口に含んだ。
それでちょうどワイングラスも空になった。
もう少し食べたい、もう少し飲みたい。
そんな藤本の気持ちが、更に彼の食欲を駆り立てた。
そして、この食欲を増進させる事こそが、オードブルの本来の意味であり、本来の姿なのである。
「それではスープをお持ちします」
そう言って、川島美千子は厨房に戻った。
「スープ?
スープって、まさか…
おい、石崎君」
「そうです。
あの時のコースをすっかり再現します。
ただし、彼女の味付けで。
そして専務に分かって欲しいんです。
僕がなぜあの店の料理に手がつけられなかったのかを、それを理解してもらいたくて…」
「今の一皿で、とっくに分かっておるわ。
わしもこの料理を先に食べていたら、多分あそこの料理は食わんかったろう。
それよりも、コースをすべて再現するというのは本当なのか?」
「はい、デザートまで、すべてを」
そうか!
それで分かった。
彼女がワイングラスに二分目ほどしかワインを注がなかった理由が。
これから出てくる各料理に、それぞれふさわしいワインを用意しているからなのか。
藤本は厨房の方をチラッと見て、それから再び石崎武志を見た。
その目には怒りなどなく、その口元には微笑さえこぼれていた。
「石崎君、わしが今どんな気持ちか分かるか?
子供のようにワクワクしとるよ。
次に出されるスープが待ち遠しくてな。
しかも、そのあとに魚料理と肉料理。
いったいどこまでわしを驚かせてくれるのか。
それが楽しみでな」

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