魔女の食卓 36
『メインディッシュ』
最後の晩餐
ひとくち食べれば
あの歌が…
ふたくち食べれば
あの人が…
みくち食べれば
あの頃が…
思い出となって
よみがえる
そんな料理を
最後に食べたい
眠れなかった。
大西麗子はベッドから起き上がると、部屋の電気をつけ時計を見た。
午前四時を少し過ぎていた。
納得のいかない事の積み重ねが、段々と形になり、やがては明確な疑惑となる。
彼女は昨日飲みかけのラム酒のグラスを手に取ると、ソファーに腰掛けた。
その目は、何もない空間をみつめていた。
もう一月以上も石崎武志とは、まともに連絡すらとれない。
たまに連絡がついたかと思えば、あれこれと言い訳をして、自分と会おうともしない。
それは彼女にとって、初めての経験。
何よりも我慢ならないのは、彼女のほうから一方的に連絡を入れるだけで、彼の方から連絡を取ろうとする気配が、まったくない事だ。
そして、彼からの連絡を心のどこかで待っている自分も許せなかった。
『あなたが私に夢中』
の法則は、時間が経てば経つほど崩れていくようだった。
彼女の知らない所で、何かが進行しているのは確かだった。
もしも、その原因が女なら…
それは彼女にとって絶対にあってはならない事だった。
嫉妬ではない。
自分がほかの女に負ける、それが許せないのだ。
もし原因が女と分かったなら、その瞬間から石崎武志はラグビーボールとなる。
ラグビーはボールを奪い合うゲームだが、それはボールが欲しくて、奪い合っている訳ではない。
ただ、このボールを奪い合う勝負に負ける事だけは、絶対に許されないのだ。
それはプライドという、彼女にとっては何よりも大切な物を賭けるゲームだからだ。
そして、この女同士のゲームに敗れた敗者は、この世で最もみじめな敗者となる。
もう待ってなどいられない。
とにかく、確かめる事だ。
石崎武志が、どこで何をしているのか、それを知る事だ。
彼女は手にしたラム酒のグラスを一気に飲み干した。
大西麗子の女の本性が、牙を剥き始めた。
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