魔女の食卓 37
*焼き鳥屋のテーブル席で、OLの山口、戸倉、朝倉が話している*
山口
「あたしさぁ、最近悩んでんだ」
戸倉
「…悩む?
あんたが?
ちょっと、寝言はレム睡眠の時に言ってよね」
山口
「いいじゃない、あたしが悩んだって。
あたしだって、恋のお年頃なんだから」
戸倉
「なになに?
タツノオトシゴろ?」
山口
「恋のお年頃よ、馬鹿!
なによ、タツノオトシゴろって。
あたしは辰年生まれじゃないわよ」
朝倉
「ちょっと、なに上方漫才みたいな事言ってるのよ。
とにかくさ、その悩みっていうのを聞いてあげようよ。
酎ハイのツマミにちょうどよさそうだし」
山口
「じゃ、聞いてよ。
あたしさぁ、結婚の事で悩んでるのよ」
戸倉
「するの?
結婚?
ずいぶん勇敢な男がいたわね。
あんたと結婚するなんて」
山口
「別に今すぐ結婚するって訳じゃないけどさ。
でも、そういう事を真剣に考える時期に来てるんじゃない。
あたしだけじゃないわよ。
あんたも、あんたもよ」
朝倉
「まぁ、確かにそうよね。
いつまでもこうやって、三人ツルんで飲んでたって、ちっとも進歩がないしね。
あんたもタマにはまともな議題を提示するじゃない。
それで、具体的にはどういうふうに悩んでるの?」
山口
「彼がね、あたしの事
『愛してる』
って言うのよ」
戸倉
「結局、ノロケか」
山口
「違うわよ。
あたしもね、彼の事嫌いじゃないわよ、好きよ。
だけどさぁ、彼の事を『愛してる』
かって聞かれたら
『?』
なのよね。
『愛してる』
って彼が言えば言うほど、分からなくなっちゃうのよ」
朝倉
「愛してないの?」
山口
「それが分からないのよ。
今の気持ちが愛なのか、それとも全然別の、ただの好意程度のものなのか。
もしよ、結婚してから
『あっ!
これって愛じゃなかったんだ』
って気付いても手遅れじゃない。
愛のない結婚になっちゃうもん」
戸倉
「はい!
お答えします。
あのねぇ、愛と結婚をゴッチャにして考えてると、破滅しちゃうよ。
愛と結婚は、まったく別物よ。
愛してるから結婚するっていうのは、あたしに言わせれば話の飛躍よ」
山口
「じゃ、愛って何よ?」
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