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魔女の食卓 42

[359]  矢口 沙緒  2009-11-25投稿


すでに石崎武志の車を見失ってから、三十分以上が経過している。
彼女は焦りだした。
こんな想いは二度としたくない。
今夜、決着をつけなければ。
しばらく道を戻った彼女は、それを見つけた。
車が一台通るのがやっとという、細い別れ道だった。
彼女は迷う事なく、その道を入った。
道はすぐに終わり、木に囲まれた広場に出た。
中央に建物が建っていて、中の電気がついている。
彼女はホテルを連想していたが、それはもっと小さい、レストランのような建物だった。
その前に、石崎武志の車が止まっている。
彼はここで女と過ごしている。
自分の車を適当な所に止め、建物に向かった。
もう彼女に迷いはなかった。
一気に建物の入り口まで向かった。
レストランのように見えたが、営業している気配はなかった。
黒い大きなドアは、堅く閉ざされている。
彼女はインターホーンを鳴らした。
ピン・ポンと軽やかな音が、ドアの奥で響く。
一度目は応答がなかった。
二度目に鳴らすと、
「どちら様ですか?」と不審そうな女の声がした。
ドアを開けようとする気配はまったくない。
「大西麗子といいます。
ここに武志さんがいるでしょ。
彼に取り次いでください」
それに対する返事はなかったが、しばらくするとガチャっと鍵の開く音がして、ドアがゆっくりと開いた。
石崎武志が立っていた。
「麗子か…
とにかく中に入ってくれ。
いずれ君とも、話し合わなくてはいけないと思っていた」
「ありふれた言い訳は聞きたくないわ。
あなたの気持ちが聞きたいの」
「うん、分かった」
彼はそう言うと、ドアを大きく開けて、彼女を招き入れた。
大西麗子が彼を尾行してきたという事は、容易に想像がついた。
だが石崎武志はそれを責めようとはしなかったし、また責める資格がない事も知っていた。
大西麗子は中に入ると部屋を見渡した。
テーブル席が四席しかないが、そこはやはりレストランの店内だった。
しかし、中には石崎武志一人しかいない。
椅子の上で丸くなって寝ていたシャーベットは、彼女に気付くと起き上がり、そのたっぷりとした白毛をなびかせながら、跳ねるように厨房へと消えていった。
そして、それと入れ違いに、白いエプロン姿の女性が出てきた。
その女性は大西麗子を見ると、無言のまま軽く頭を下げた。

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