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魔女の食卓 43

[486]  矢口 沙緒  2009-11-25投稿


えっ?…
そんな、まさか!
…この人が?
…だって、この人は…
大西麗子は石崎武志を見た。
彼はコクリとうなずいた。
信じられなかった。
だって、私はもっと…
なぁに、この人!
この人は私が車で水をひっかけた女じゃない。
営業部の隅っこで、電卓をカチャカチャたたいてた女じゃない。
田舎臭くってセンスのかけらもない、ずんぐりむっくりして、いかにもトロそうな。
なんでこんな女が、ここにいるのよ。
この女がそうなの?
そんな馬鹿な!
いくらなんだって、そんな事って…
「紹介しておくよ。
こちらは大西麗子さん」
大西麗子は射るような目で川島美千子を見た。
「彼女は川島美千子さん。
僕の大事な人だ」
川島美千子はペコリと頭を下げた。
「大事な人?
いったい、どういう意味?」
「言葉通りの意味だ」
「私よりも?」
石崎武志は彼女の問に答えなかった。
それが彼の答えだと、大西麗子には分かった。
だが、どうしても信じられない。
彼の口から直接聞くまでは。
二人は黙ったまま立っていた。
凍りついた沈黙の時を破ったのは、川島美千子だった。
「お食事の用意ができました」
気がつくと、テーブルの上に二人分の食事が用意されていた。
パンとスープ、そして皿には添え物の野菜と一緒に、ハンバーグが乗っている。
「おっ!ハンバーグか」
石崎武志はテーブルを見るなり、大西麗子の事などすっかり興味をなくしたようにテーブルに近づき、さっさと座ってしまった。
その彼の態度が、自分が彼にとっていかに存在価値のない女かを物語っていた。
「あの、よろしかったら大西さんもいかがですか?」
川島美千子が笑顔で言った。
「そうだ、麗子も食べて行けよ。
うまいぞ」
…食べて行け?
…それじゃ、食べたら、行けって事?
食べたら、帰れって事なの!
もう冷静を保つ事は出来なかった。
こんな女に…
なんで私が、こんな女に…
彼女はツカツカと石崎武志の座っているテーブルに近づくと、彼の前に置かれているハンバーグの皿に手をかけた。
「こんな、子供みたいな物、食べられる訳ないじゃない!」
そう言って、勢いよく皿を宙に跳ね上げた。
ハンバーグと皿は空中を舞い、ハンバーグはテーブルの上に落下し、皿は床に落ちて派手な音をたてて砕け散った。
そして、あたり一面に、ハンバーグのデミグラスソースが飛び散った。

感想

  • 32588: 早く続きが読みたいです。。。 [2011-01-16]
  • 32721: なにより嬉しい一言です。ありがとうございます:沙緒 [2011-01-16]

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