ベースボール・ラプソディ No.8
「随分と長い相談だったな」
ようやく守備についた哲哉に、大澤はおもむろに語りかけた。
「それだけの価値がある相手ですからね」
「その割には、内野の守りが二人しかいないじゃないか」
二塁手が一塁手を、遊撃手が三塁手の守備をカバーする変則守備を目にし、少し皮肉って大澤は笑みをうかべた。
「あいにくと、部員が七人しかいないものですからね。大澤さんには外野を重視した方が、得策だと思ったんですよ。
それより、そろそろ始めましょうか」
「ああ」
短く答えた大澤が左打席で構えると、彼の鋭い視線が八雲を貫いた。
その眼光にブランクは存在せず、グランド内の隅々にまで緊張の糸を張り巡らしていた。
生徒達の声がこだまする学園内で、野球部のグランドだけが時間の流れを停めていた。
呼吸すら忘れてしまいそうなプレッシャーの中、サインの確認を終えた八雲がおもむろに振りかぶる。
すると、時は呪縛から解き放たれ、ゆっくりとその流れを取り戻した。
その直後、哲哉のミットを貫く爆音がグランドに鳴り響いた。
内角低めにコントロールされたその直球は、ストライクゾーンの境界線を通過していた。
「……今のはストライクでいいですか?」
上目遣いで大澤を見る哲哉は、微妙なコースだっただけに、一応の確認をとった。
「構わんさ」
短く答えた大澤は、コースの判定よりも別のところに興味を示していた。
右オーバースローの綺麗なフォームから放たれた直球を、食い入るように観察した大澤は、分析結果に満足して笑みをもらしていた。
「中々の球速だし、なによりも制球力がいいようだな。結構楽しませてくれそうだな」
そして二球目、八雲が振りかぶるのに合わせて身構える大澤。
初球とは逆の、アウトコース低めに要求した哲哉。その構えたミットに寸分違わず八雲が投げ込むと、鋭く踏み込んでバットを繰り出す大澤。
鈍い金属音の直後、哲哉の背後でバックネットが大きく揺れた。
大澤のバットはボールを捕らえたものの、わずかに芯を外して球威に押し負けしていた。
「……いい球威だっ!」
大澤の目つきが変わった。
手に残る感触を噛み締める大澤は、歓喜の念をこめてそう囁いていた。
ようやく守備についた哲哉に、大澤はおもむろに語りかけた。
「それだけの価値がある相手ですからね」
「その割には、内野の守りが二人しかいないじゃないか」
二塁手が一塁手を、遊撃手が三塁手の守備をカバーする変則守備を目にし、少し皮肉って大澤は笑みをうかべた。
「あいにくと、部員が七人しかいないものですからね。大澤さんには外野を重視した方が、得策だと思ったんですよ。
それより、そろそろ始めましょうか」
「ああ」
短く答えた大澤が左打席で構えると、彼の鋭い視線が八雲を貫いた。
その眼光にブランクは存在せず、グランド内の隅々にまで緊張の糸を張り巡らしていた。
生徒達の声がこだまする学園内で、野球部のグランドだけが時間の流れを停めていた。
呼吸すら忘れてしまいそうなプレッシャーの中、サインの確認を終えた八雲がおもむろに振りかぶる。
すると、時は呪縛から解き放たれ、ゆっくりとその流れを取り戻した。
その直後、哲哉のミットを貫く爆音がグランドに鳴り響いた。
内角低めにコントロールされたその直球は、ストライクゾーンの境界線を通過していた。
「……今のはストライクでいいですか?」
上目遣いで大澤を見る哲哉は、微妙なコースだっただけに、一応の確認をとった。
「構わんさ」
短く答えた大澤は、コースの判定よりも別のところに興味を示していた。
右オーバースローの綺麗なフォームから放たれた直球を、食い入るように観察した大澤は、分析結果に満足して笑みをもらしていた。
「中々の球速だし、なによりも制球力がいいようだな。結構楽しませてくれそうだな」
そして二球目、八雲が振りかぶるのに合わせて身構える大澤。
初球とは逆の、アウトコース低めに要求した哲哉。その構えたミットに寸分違わず八雲が投げ込むと、鋭く踏み込んでバットを繰り出す大澤。
鈍い金属音の直後、哲哉の背後でバックネットが大きく揺れた。
大澤のバットはボールを捕らえたものの、わずかに芯を外して球威に押し負けしていた。
「……いい球威だっ!」
大澤の目つきが変わった。
手に残る感触を噛み締める大澤は、歓喜の念をこめてそう囁いていた。
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