コウ編?
リビングのドアを見つめていると、「お兄ちゃん?」と言って郁が入って来た。
「やっぱり、か」
何でもないという風だが、郁は心なしか寂しそうな顔をした。
「母さんは?相変わらず?」
「ああ。」
郁はソファーに腰をかけ、俺に背を向けながらつぶやいた。
「こんな家、生まれてこなきゃよかった。」
いつもの郁だったら、すぐに荷物を取りに二階へ行くのに、今日は違った。
「どうしたんだ、郁?」
俺は郁の隣に座った。
最初、郁は口を開かなかった。ただ俺の前で、涙を大きな瞳からこぼした。
「なあ、おまえはひとりじゃない。俺がいる。」
郁の柔らかな髪を撫でながら言う。
「たとえ親が俺達を愛していなくても、俺がおまえを愛している。」
「決して見捨てないよ。」
「うん。」
郁はそれからぽつりぽつりと喋り始めた。
友達が、家族と旅行に行って楽しかった話を聞いて、なぜか悲しくなったこと。
家の事情を知らない教師が、両親のことを褒めたたえていたこと。
郁の話を聞いていて、俺は親に対して腹が立つというより、悲しみと、虚しさが胸を占めた。
愛想だけはいい両親、やつらは仮面を被っているのだ。
「私は議員の夫を心から応援し、支えている。」
選挙のときなど、父の面子を保つためには、力をつくす。
それ以外は何も自分以外関心がない。
結局、議員の妻という肩書と名誉を保ちたいだけなのだ。
親父は俺に自分より各上の、国会議員にならせることにしか関心がない。
俺が何をしたいのかなど聞きもしない。
郁は女だからという理由で、全く関心がない。郁が外泊を続けていても、何も言わない。
なんだかむしょうに悲しかった。
「俺なんか、三者面談でお袋が来たときは、ぞっとしたよ。」
「家でのあることないことを、嘘で固めて担任に話すんだ。」
「思わず、母には愛人がいて、自分にはお金と、父の名誉を傷つけないようにとだけ言って、出て行くんです、
そう言いたかったよ。」
「私たち、何で生まれてきたんだろうね?」
その重い言葉に何も答えられなかった。
ただ、そのとき、ミミとエイの姿が脳裡に浮かんでいた。
「やっぱり、か」
何でもないという風だが、郁は心なしか寂しそうな顔をした。
「母さんは?相変わらず?」
「ああ。」
郁はソファーに腰をかけ、俺に背を向けながらつぶやいた。
「こんな家、生まれてこなきゃよかった。」
いつもの郁だったら、すぐに荷物を取りに二階へ行くのに、今日は違った。
「どうしたんだ、郁?」
俺は郁の隣に座った。
最初、郁は口を開かなかった。ただ俺の前で、涙を大きな瞳からこぼした。
「なあ、おまえはひとりじゃない。俺がいる。」
郁の柔らかな髪を撫でながら言う。
「たとえ親が俺達を愛していなくても、俺がおまえを愛している。」
「決して見捨てないよ。」
「うん。」
郁はそれからぽつりぽつりと喋り始めた。
友達が、家族と旅行に行って楽しかった話を聞いて、なぜか悲しくなったこと。
家の事情を知らない教師が、両親のことを褒めたたえていたこと。
郁の話を聞いていて、俺は親に対して腹が立つというより、悲しみと、虚しさが胸を占めた。
愛想だけはいい両親、やつらは仮面を被っているのだ。
「私は議員の夫を心から応援し、支えている。」
選挙のときなど、父の面子を保つためには、力をつくす。
それ以外は何も自分以外関心がない。
結局、議員の妻という肩書と名誉を保ちたいだけなのだ。
親父は俺に自分より各上の、国会議員にならせることにしか関心がない。
俺が何をしたいのかなど聞きもしない。
郁は女だからという理由で、全く関心がない。郁が外泊を続けていても、何も言わない。
なんだかむしょうに悲しかった。
「俺なんか、三者面談でお袋が来たときは、ぞっとしたよ。」
「家でのあることないことを、嘘で固めて担任に話すんだ。」
「思わず、母には愛人がいて、自分にはお金と、父の名誉を傷つけないようにとだけ言って、出て行くんです、
そう言いたかったよ。」
「私たち、何で生まれてきたんだろうね?」
その重い言葉に何も答えられなかった。
ただ、そのとき、ミミとエイの姿が脳裡に浮かんでいた。
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