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コウ編?

[264]  サン  2009-11-30投稿
リビングのドアを見つめていると、「お兄ちゃん?」と言って郁が入って来た。

「やっぱり、か」
何でもないという風だが、郁は心なしか寂しそうな顔をした。

「母さんは?相変わらず?」
「ああ。」

郁はソファーに腰をかけ、俺に背を向けながらつぶやいた。

「こんな家、生まれてこなきゃよかった。」

いつもの郁だったら、すぐに荷物を取りに二階へ行くのに、今日は違った。

「どうしたんだ、郁?」

俺は郁の隣に座った。
最初、郁は口を開かなかった。ただ俺の前で、涙を大きな瞳からこぼした。

「なあ、おまえはひとりじゃない。俺がいる。」

郁の柔らかな髪を撫でながら言う。

「たとえ親が俺達を愛していなくても、俺がおまえを愛している。」

「決して見捨てないよ。」

「うん。」

郁はそれからぽつりぽつりと喋り始めた。

友達が、家族と旅行に行って楽しかった話を聞いて、なぜか悲しくなったこと。

家の事情を知らない教師が、両親のことを褒めたたえていたこと。

郁の話を聞いていて、俺は親に対して腹が立つというより、悲しみと、虚しさが胸を占めた。

愛想だけはいい両親、やつらは仮面を被っているのだ。
「私は議員の夫を心から応援し、支えている。」

選挙のときなど、父の面子を保つためには、力をつくす。
それ以外は何も自分以外関心がない。

結局、議員の妻という肩書と名誉を保ちたいだけなのだ。

親父は俺に自分より各上の、国会議員にならせることにしか関心がない。

俺が何をしたいのかなど聞きもしない。

郁は女だからという理由で、全く関心がない。郁が外泊を続けていても、何も言わない。

なんだかむしょうに悲しかった。
「俺なんか、三者面談でお袋が来たときは、ぞっとしたよ。」
「家でのあることないことを、嘘で固めて担任に話すんだ。」

「思わず、母には愛人がいて、自分にはお金と、父の名誉を傷つけないようにとだけ言って、出て行くんです、
そう言いたかったよ。」

「私たち、何で生まれてきたんだろうね?」

その重い言葉に何も答えられなかった。

ただ、そのとき、ミミとエイの姿が脳裡に浮かんでいた。

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