MLS-001 032
明広が
まず思い描いた答えは、
至極常識的な解答だった。
…それは
虱潰しに一階から…
病院の桜色の階段を
足早にあがる女の姿が、
目に浮かぶ。
考える端から
文字になっていく答えを、
皇鈴の明るい声が遮った。
「一室一室、
全部見て行くの?
そんな面倒くさいこと
しないわよ。」
いたずらっぽい目が、
明広の次の答えを
待っている。
そうか、
俺の思考を読んだんだ。
明広は、
大切な事実を思い出し、
でかしたぞ自分、と
心中ほくそ笑む。
「残念、外れ。」
皇鈴の黒い瞳が
楽しそうに輝いた。
うっそ…
今度こそ正解
と思っていただけに、
明広は、
つい、つまらぬ思考を
言葉に変えた。
無論、心中だが、
しまったと思ったときには
遅かった。
間髪入れず
目の前の女が、
クスクスと笑い始める。
「あんた、素直ないい子ね。」
誉めたのだろうが、
誉められた気がしない。
苦々しい思いは
言葉とならず、
顔に出た。
それを見た皇鈴は、
笑いの尻尾を噛み潰し、
言葉を続けた。
「いいのよ。
最初から
上手くいく人なんて
居ないわ。
もし貴方が答えられたら、
どこのスパイかと
思ったくらい。」
口角に
笑いの残り香を
宿したままの皇鈴に、
明広は、
相変わらず
苦々しい顔をしている。
「第五次元開発計画。
聞いたこと、あるかしら。」
皇鈴の細い指が動き、
白い陶器の触れ合う
澄んだ音がした。
いえ、ありませ…
はたと止まる。
中学で習った
現代史のつまらぬ知識が
引っかかった。
海滝博士、ですか?
もう何年も
さらっていないのに、
俺の頭の中に
そいつは、あった。
音も立てずに、
あり続けていた。
記憶とは
不思議なものだ。
「そう。」
皇鈴の黒い瞳が、
長いまつげの下から
明広の目を
真っ直ぐ、見た。
----------
※ご挨拶※
ご一読有難う御座います。
毎度不定期ですみません。
本業も佳境に入り
定期投稿は出来ませんが、
必ず完結させます。
宜しくお願いします。
まず思い描いた答えは、
至極常識的な解答だった。
…それは
虱潰しに一階から…
病院の桜色の階段を
足早にあがる女の姿が、
目に浮かぶ。
考える端から
文字になっていく答えを、
皇鈴の明るい声が遮った。
「一室一室、
全部見て行くの?
そんな面倒くさいこと
しないわよ。」
いたずらっぽい目が、
明広の次の答えを
待っている。
そうか、
俺の思考を読んだんだ。
明広は、
大切な事実を思い出し、
でかしたぞ自分、と
心中ほくそ笑む。
「残念、外れ。」
皇鈴の黒い瞳が
楽しそうに輝いた。
うっそ…
今度こそ正解
と思っていただけに、
明広は、
つい、つまらぬ思考を
言葉に変えた。
無論、心中だが、
しまったと思ったときには
遅かった。
間髪入れず
目の前の女が、
クスクスと笑い始める。
「あんた、素直ないい子ね。」
誉めたのだろうが、
誉められた気がしない。
苦々しい思いは
言葉とならず、
顔に出た。
それを見た皇鈴は、
笑いの尻尾を噛み潰し、
言葉を続けた。
「いいのよ。
最初から
上手くいく人なんて
居ないわ。
もし貴方が答えられたら、
どこのスパイかと
思ったくらい。」
口角に
笑いの残り香を
宿したままの皇鈴に、
明広は、
相変わらず
苦々しい顔をしている。
「第五次元開発計画。
聞いたこと、あるかしら。」
皇鈴の細い指が動き、
白い陶器の触れ合う
澄んだ音がした。
いえ、ありませ…
はたと止まる。
中学で習った
現代史のつまらぬ知識が
引っかかった。
海滝博士、ですか?
もう何年も
さらっていないのに、
俺の頭の中に
そいつは、あった。
音も立てずに、
あり続けていた。
記憶とは
不思議なものだ。
「そう。」
皇鈴の黒い瞳が、
長いまつげの下から
明広の目を
真っ直ぐ、見た。
----------
※ご挨拶※
ご一読有難う御座います。
毎度不定期ですみません。
本業も佳境に入り
定期投稿は出来ませんが、
必ず完結させます。
宜しくお願いします。
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