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天使のすむ湖7

[297]  雪美  2006-08-12投稿
香里の赤い車で岬は送られることになり、後ろから心配した一樹がバイクでついてきていた。
まだ岬の顔は青ざめたままだった。

車内は月明かりがさしている
「自転車で山を上がってきたの?」
「そうです。」
気まずい沈黙が夜の森のざわめきを際立たせていた。
「一樹のことが好きなのね?」
「はい、十七年間一樹を見てきて、知らないことなんてないと思っていました。小さいころからずっと一緒でやっと恋人同士になって一年なのに・・・・・」
また涙が頬をぬらしていた。
「私の話も聞いてくれるかな?」
岬への罪の意識から、遠慮がちに香里は切り出した。
「まずは、あなたがいたなんて知らなかったとはいえ傷つけたことはごめんなさいね。」
「いいえ、でもあなたみたいな綺麗な人なら負けて当然ですよね。」
「そんなことないわ、あなたと一樹は兄弟みたいによく似てるのね」
涙声の岬は夏なのに寒く感じていた。
「私ね、もう時間がないの、脳腫瘍で手術は不可能な場所にあって、持てば一年くらいかしらね」
「うそです、そんなのー」
「うそじゃないのよ、本当のことなの」
香里は信号で止まると真剣な顔で岬に告げた。
「私のわがままな願いで、今まで恋愛もしていないし一樹のような子と恋愛するのが夢だったの、最後の願いのはずだった。でも、一樹に出会った今は人間て欲張りね、死ぬのが怖くなった。」
「だから一樹を誘惑したんですか?」
岬は怒っていた
「謝ってすむことじゃないわね、一年、長くて二年私に一樹をその時間だけ譲ってもらえないかしら?」
「なに言ってるんですか?一樹は物じゃないんですよーもう心はあなたを向いてます。」

家の前までくると、香里は予言的に
「私が亡くなれば、彼を支えられるのはあなただけだし、あなたと彼には私には割り込めない未来が見えるのよ。」
調子のいいことを言ってると岬は思っていた。
「病気のことまだ彼には言わないでね、いずれ私から話すから」
「わかりました。」
岬にはそうとしか答えられなかった。
ふらつく足取りで降りると、一樹が支えてくれて自宅に帰った。
悪い夢ならいいのにと思っていた。
三人が三様に罪悪感を感じた、月明かりの綺麗な夜だった。

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