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天使のすむ湖9

[372]  雪美  2006-08-13投稿
主治医は一樹が婚約者だと名乗ると、病状について説明を始めた。
「香里さんは脳腫瘍で手術できない場所にできている。持っても一年から二年が限界だ、入院も勧めてみたが本人がどうせ治らないなら自宅で過ごしたいと強く希望があってね、自宅療養となっているのだよーとにかく疲れさせないことだなー」
そういって帰っていった。

キヨさんがコーヒーを入れてくれていた。
「お父上も同じ病気で亡くなりました。そのとき遺言で葛巻画伯と奥様は結婚されたのですよ、葛巻様は絵のことにしか興味がなくて、そのとき東京にあった自宅に奥様は置き去りにされ、いつもこの別荘のアトリエで過ごされていました。奥は愚痴一つ言わないでいつも待ってましたの、そのうちに心臓発作でここで亡くなられました。」
香里は寂しかったのではないかと一樹は思った。今も本当は寂しくて俺を誘ったのかもしれない、ずっと孤独だったのだ、恋愛もしたことがなかったお嬢様育ちの香里が耐えた時間を思うと、胸が締め付けられる思いがした。

手を握っていつの間にか眠っていたが、気づくと香里はベットにはいない、
キヨさんと共に探すと、出会ったときと同じように湖のほとりに立っていて、霧が深く白いもやの中で呆然とたたずんでいた。
「香里ーどうしたんだこんなところで」
「先生から私の病のこときいたのよね、一樹は・・・・」
「聞いたよ、そんなに持たない命だということもね・・・」
「黙っててごめんなさい、私死ぬのが怖いの、せめて恋がしたいといつもここで願っていたの、願いはかなったけど一樹と離れるのが怖いの、独りぼっちにしないで・・・」
絞り出すような声が切なくて、香里を優しく抱きしめた。
「ひとりじゃないよ、俺がそばにいるから、体を冷えないように」
着ていた上着を香里にそっとかけた。
「香里、二人の時間をこれからは大事にしような」
香里は小さくうなづいて、影が薄く感じられた。

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