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ベースボール・ラプソディ No.11

[506]  水無月密  2009-12-17投稿
「そう心配するなって、確かに大澤さんは凄いバッターだけど、負けやしないさ。
 何たってオレのストレートは小次郎の折り紙付きだからな」
 そういって哲哉の肩をたたくと、八雲は屈託のない笑顔をみせた。
「…わかったよ、俺もお前を信じる」
「おう、だから次は全力でいくぜ」
「えっ、…まさかお前、今のは全力じゃなかったのか?」
 如実に驚く哲哉に、八雲は怪訝な顔をした。
「無理して投げんなっていったのは、アンタでしょうが」

 哲哉は驚きを通り越して呆れていた。
 三投目の球速は百四十キロ近くでていたはずで、本格的な投球練習をしていない八雲には奇跡に近い球速だった。
 にもかかわらず彼は、まだ余力があるというのだから無理もない。
 そして哲哉は思う。
 大澤と同様、目の前にいるこの男も野球の女神に愛されているのだろうと。

「……肩に違和感はないか?」
 それが一番の気掛かりである哲哉は、八雲の目を見て問い掛けた。
「すこぶる快調だっ!」
 視線をそらさず、笑顔でこたえた八雲に安堵して頷く哲哉。
「じゃあ、次の一球で勝負をきめよう」
 そう言い残して守備にもどりかけた哲哉だったが、今一度振り返って八雲を見た。
「……ちなみに聞くが、負けた場合はその後の事、何か考えはあるのか?」
「何いってんだ、考えるのはてっつぁんの仕事だろ、オレに聞くなよ」
 あっけらかんと言い放つ八雲。
 彼と組むようになって半年、哲哉はため息ばかりつくようになった自分に気付いた。


「すみません、お待たせしました」
「ああ」
 一瞥もくれることなくこたえた大澤。
 既に彼が臨戦体勢にある事を知り、哲哉も即座に戦闘準備を調えた。

 内角高めの要求に迷うことなく頷いた八雲は、ゆっくりと、そして大きく振りかぶった。
 その脳裏には、懐かしい声が去来していた。
……身体のひねりが、投げるボールに命を吹き込む
 その言葉に忠実であろうとする八雲は、体中の関節に極限までひねりを加えていた。
 それが頂点に達した時、彼の背中は完全に大澤へと向いていた。

……下半身の強さとスムーズな体重移動が、ボールに更なる力を与えてくれるんだ
 大きく踏み出された左足は、右膝が地につくほどに身体を沈めさせ、そして前方へと移動させた。

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